採用難時代を勝ち残るために求められる、企業人事の発想の転換
- ダイヤモンドHRD総研
2024年、コロナ禍が明けた今、企業が直面する最大の課題の一つが優秀な人材の確保です。これは世界的な問題であり、各国の企業が人材難の時代を生き抜くことを求められています。特に日本では少子高齢化が進む中で問題が深刻化しており、表面的な対策では解決が困難な状況です。こうした背景を踏まえ、『DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー』9月号では、「人材戦略:採用難時代を勝ち残る」を特集しています。
採用難時代に「生き残る」だけでなく「勝ち残る」ために、今、企業や人事担当者が取るべき戦略とは何か。本号の読みどころと併せて、『DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー』編集長の常盤亜由子が解説します。(ダイヤモンド社 人材開発編集部)
特集タイトルに「生き残る」ではなく「勝ち残る」という言葉を選んだ理由
人材難の時代にどのように優れた人材を確保すべきか、人事の皆さんは日々、悩まれていることと思います。私たち『DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー』(DHBR)は、100年超の歴史を持つ世界的なマネジメント誌『ハーバード・ビジネス・レビュー』(HBR)の日本版として、HBRの論文を多数掲載していますが、最近、特に増えていると感じるのが人材難時代の人事の在り方にフォーカスした論文です。米国をはじめとした世界の国々が人材難の時代を迎え、企業は優れた人材の確保に苦労し、採用やリテンションの難しさがますます顕著になっています。
日本に関しては、言わずもがな、この問題がさらに重く企業に圧しかかっています。実際、企業の人事担当者とお会いしても、「うちは人材が十分に揃っています」と話す方はほとんどいません。現在の人材難が一時的なものであるという保証はどこにもなく、むしろ将来的にはさらに深刻化する可能性が高いと感じています。少子高齢化が進む日本では、特にこの問題に対して根本的な対策を講じる必要があります。単なる対症療法ではなく、発想を大きく転換しなければ、企業は生き残れないでしょう。この危機感が、今回の特集を組むきっかけとなりました。
今回の特集タイトル「人材戦略 採用難時代を勝ち残る」は、編集部で非常に時間をかけ、慎重に議論を重ねてつけたものです。特にサブタイトルの「勝ち残る」という言葉には、私たちの強いメッセージを込めています。なぜ「生き残る」のではなく、「勝ち残る」という言葉を選んだのか。サバイブ(生き残る)という言葉には、ギリギリの状況で何とかやり過ごすというニュアンスがありますが、私たちはそれでは不十分だと考えました。むしろ、発想を変え、まだまだ新たな人材の活用方法や採用の方法を見つけ出し、積極的にこの時代を乗り越えていくためのヒントを提供したいと考え、その想いを「勝ち残る」という言葉に込めたのです。
特集1本目 「これからの人事、これからの役割」
それでは、今回の特集で掲載している5本の論文を1つずつご紹介していきます。最初は、ヒューマンリソースの専門家である、ペンシルバニア大学ウォートンスクール教授のピーター・キャペリらの論文「これからの人事、これからの役割」です。特集のオープニングにおいて重要な役割を果たしています。キャペリ教授は長年にわたりヒューマンリソースに関する研究を行っており、過去の人材管理の趨勢に精通しています。今回の彼らの論文では、人材がかつてコストと見なされていた時代から、現在では資産として捉えられるようになった変化が語られています。この視点の転換は非常に重要です。
かつては労務費がコストと見なされていましたが、現代では多くの企業が人材を投資すべき対象として見ています。この転換が企業の未来を大きく左右することは明らかです。ヒューマンリソース担当者がこの転換を理解し、実践することが企業の「生き残り」や「勝ち残り」のカギを握っています。
また、若者が減少し、採用プールが縮小するなかで、日本企業が従来の方法で勝ち残るのは難しくなっています。人事部門には新たな視点を取り入れた対策が欠かせませんが、この論文では採用コストやリテンションコストの把握の重要性が強調されています。
多くの企業は採用コストを把握していますが、離職に関わるコストを正確に把握している企業はほとんどありません。この点を考慮することが、企業の将来に大きな影響を与えるでしょう。また、人事部門が現状を把握していなければ、トップマネジメントに有効な提案は難しいです。
この論文は、人事部門が戦略を立てる際の具体的なヒントを提供しています。ダイバーシティやインクルージョンの重要性についてもコンパクトにまとめられており、今後の人事戦略を考える上で非常に役立つ内容です。
特集2本目 「企業はオープンタレント戦略で採用難を克服せよ」
次にご紹介するのは、オープンタレント活用のアドバイスを行うオープン・アッセンブリーの創設者兼会長であるジョン・ウィンザーらの論文「企業はオープンタレント戦略で採用難を克服せよ」です。この論文は非常に興味深く、目から鱗という内容ばかりでした。
現在の人材に関わる問題は、単に数だけでなく、質の不足という点でも深刻です。急速なAIやロボットの進化により、比較的経験の浅い人が行うジュニアレベルの仕事が機械に置き換わりつつあります。その結果、ジュニアレベルの人材需要は減り、より高度なスキルを持つ人材の争奪戦が激化しています。
この状況を打破するため、ウィンザーらは「オープンタレント戦略」を提案しています。具体的には、外部の人材クラウドプラットフォームを活用することです。これにより、従来の方法に依存せず、理想的な人材を効率的に見つけることが可能になります。
この論文は、新しい採用戦略の事例や具体的な活用方法も紹介しており、現代の人材戦略において非常に役立つ内容です。テクノロジーを活用して効率的に人材を採用するためのヒントが詰まった論文なので、ぜひ一読をお勧めします。
特集3本目 「外部の専門人材を組織に融合させる方法」
次にご紹介するのは、大手食品メーカーであるクラフト・ハインツの取締役ダイアン・ガーソンと、『ライフシフト』の著者としても有名なロンドン・ビジネススクール教授のリンダ・グラットンによる論文「外部の専門人材を組織に融合させる方法」です。この論文では、現代の企業が直面している新たな人材問題について述べられています。特に、正社員だけでチームを構築することが難しくなっている現状を指摘しています。
高度なスキルを持つ人材は、フリーランスとして独立して活動することが増えており、企業が正社員だけでチームを編成するのが難しくなっています。フリーランスや業務委託の人材は、ジョブディスクリプションに基づいて仕事を遂行しますが、組織全体のミッションには関与しないため、チーム全体の統一性を保つことが困難です。例えば、10人のチームの半数が業務委託であれば、マネジメントが複雑化し、正社員が過度な負担を負う可能性があります。
今後、このような状況はさらに広がっていくと予測されます。この論文では、プロジェクトリーダーやマネジャーが多様な雇用形態を統合し、チームをまとめるための戦略が論じられています。リーダーシップや人事に関わる方々にとって、非常に重要な示唆を提供してくれるでしょう。
特集4本目 「シニアの退職慣行を見直し、人材不足を解消する5つのステップ」
次にご紹介する論文「シニアの退職慣行を見直し、人材不足を解消する5つのステップ」では、従来の定年退職の考え方を見直し、シニア人材を有効活用する重要性について解説しています。
日本の企業では、60歳になると定年退職を迎えるのが一般的で、65歳までは希望者全員が再雇用になり、その後は「さようなら」という形で退職するのが一般的です。しかし、このエイジ・ウェーブ創業者兼CEOのケン・ディヒトバルトらによる論文では、この定年退職の発想を大きく変えるべきだと主張しています。
論文の主なポイントは、定年退職がもたらす機会損失を指摘し、シニア層の持つ知識や経験、ネットワークを活用する方法です。シニア人材は長年にわたって培った知識や人脈を持ち、組織の慣行や歴史をよく理解しているため、非常に貴重な資源です。年齢が65歳に達したからといって、その能力や経験が急激に衰えるわけではありません。むしろ、その経験を活かして、組織内での貢献を続けてもらうべきだという視点が示されています。
特集5本目 「マクドナルドは『らしさ』の追求でエンゲージメントを高める」
最後にご紹介するのは、日本マクドナルドの取締役・執行役員 チーフ・ピープルオフィサーである斎藤由希子さんへのインタビュー「マクドナルドは「らしさ」の追求でエンゲージメントを高める」です。この特集では、マクドナルドがどのようにして人材を確保し、リテンションを実現しているのかに焦点を当てています。
マクドナルドの「人材ビジネス」
マクドナルドは、単なるハンバーガービジネスにとどまらず、「ピープルビジネス」を自認し、創業者のレイ・クロックの時代から、マクドナルドは人材育成に注力してきました。その象徴的な取り組みの一つが「ハンバーガー大学」です。この社内教育機関は、日本の銀座に1号店を開店する前から設けられており、人材育成に対する真摯な姿勢を示しています。
人材確保とリテンションの秘訣
現在、マクドナルドでは約20万人ものクルーと呼ばれるアルバイトが活躍していますが、どのようにして多くのクルーを確保し、リテンションを実現しているのかについて、斎藤さんから貴重な知見が語られました。特に印象的だったのは、リファラル採用の成功です。マクドナルドでは、アルバイトの約4割から5割がリファラルによって採用されています。口コミを通じて、自分が働く職場に友人や知人を紹介するという信頼感が、リファラル採用の大きな要因となっています。
部活のような職場環境
斎藤さんは、マクドナルドの職場を「部活のようだ」と表現しています。これは、クルーたちが仲間としての一体感を持ち、楽しみながら働ける環境を指しています。実際、マクドナルドでは、多様なバックグラウンドを持つ人々が一つのチームとして協力し合い、楽しく働ける環境が整っています。この一体感こそマクドナルドらしさであり、「らしさ」の追求がクルーたちの高いエンゲージメントと長期的な勤務に寄与しているのです。
まとめ
今後の人事戦略の方向性については、今回取り上げた5本の論文が示唆していると思います。自分の所属している組織の答え合わせのように本特集をお読みいただくと、現在の自社組織がどのような位置にいるのかを確認でき、人事担当者の皆様にとって新たな気づきや直面する課題に対するヒントが得られるのではないでしょうか。
『DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー』編集長 常盤亜由子
早稲田大学を卒業後、東洋経済新報社、ランダムハウス講談社、ダイヤモンド社で書籍編集者としてビジネス書を中心とするノンフィクションジャンルの書籍を担当。ダイヤモンド社ではメンバーとともに電子書籍ビジネスを始動、自社独自開発の電子書籍ビューア「BookPorter」の開発にも携わる。その後NewsPicks等を経て、2019年にはメディアジーンに入社。Business Insider Japanの有料サブスクサービス「BI Premium」の立ち上げとグロースを担当。ゼロベースからコンテンツの企画立案・編集、プロダクトサイドの機能開発・改善に携わりチームをリード。2024年4月にダイヤモンド社に出戻り、DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー編集長に就任。
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