「人材開発」とは? 社員が学んだだけでは意味がない!? 人事が見落としがちな視点 【中原淳教授インタビュー Part1】

株式会社ダイヤモンド社 HRソリューション事業室 西村衣織 (リリー)

  • ダイヤモンドHRD総研

​ダイヤモンドHRD総研・かけだし研究員リリーが、HR領域のエキスパートのもとへ学びに行く企画。いまさら聞けない、人事のキーワードについて教えてもらいます。記念すべき第1回目は、人材開発/組織開発のエキスパート・中原淳先生に「人材開発」について語っていただきました。(聞き手/ダイヤモンド社 HRソリューション事業室・西村衣織)

今回のインタビューは……

リリー

はじめまして! ダイヤモンドHRD総研・かけだし研究員の「リリー」です。

イノ

アシスタントの「イノ」だシシ!

リリー

新卒で人事・HRの世界に飛び込んだけど、次から次へと新しいキーワードが降ってきて、頭がパンクしちゃいそう……。ベテランになったら、こんな状態から解放されるのかな?

イノ

うーん、ベテランでもきちんと説明できないことがあるかもだシシ⁉

リリー

というわけで、本連載では、「人事・HRの領域でよく聞くけれど、実はぼんやりとしか理解できてないかも(汗)」なキーワードに関して、かけだし中の私が身体を張って、エキスパートの先生方に“諸突猛進”インタビューします。人事のみなさんに“こっそり”インプットいただける記事をお届けします!

イノ

今回の先生はどなただシシ?

リリー

記念すべき第1回は、人事・HRの世界で知らない人はいない、立教大学の中原淳先生のところに突撃します! 実は、大学時代は中原ゼミに所属していて、中原先生には3年間にわたって大変お世話になりました。というわけで、最初のインタビューは、絶対に、恩師である中原先生にお願いしたいと思っていました。夢が叶って感激です……‼

イノ

感動の再会だシシ!

リリー

今回のキーワードは「人材開発」です。一日に一度は耳にする人事の合言葉みたいな存在ですが、意外に掘り下げることが少ないかもしれません。まずは基本からということで、まさしく「人材開発」のエキスパートである中原先生に尋ねてみたいと思います!

イノ

レッツゴーだシシ!

人材開発は「学び」×「経営へのインパクト」!

リリー

お久しぶりです! ダイヤモンドHRD総研・かけだし研究員のリリーです。

中原

立教大学経営学部の中原淳です。元気にやってる?

リリー

見ての通り元気いっぱいです! 本日は貴重なお時間をいただき、ありがとうございます。いっしょにお仕事ができて嬉しいです。どうぞよろしくお願いいたします!

中原

元気そうで何より(笑) こちらこそよろしくお願いします。

リリー

早速ですが、今回は「人材開発」についてお聞きしたいです。従業員を集めて研修を実施すること、みたいなイメージを持っているのですが、そもそも「人材開発」とはどんな仕事なのでしょうか?

中原

端的に言えば、「人材開発」とは、企業がビジネスの目的を達成するために、人のスキルや気持ちを整えることです。単なる「人づくり」ではなく、「企業がビジネスの目的を達成するために人づくりをする」という点が重要です。

リリー

なるほど。「ビジネスの目的を達成するため」というのが重要なんですね!

中原

どの企業も経営戦略や売上目標などを立てます。しかし、戦略をそのまま放っておいても「絵にかいた餅」にしかなりません。現場の一人ひとりが戦略に納得し、行動してくれないことには、成果達成はできません。戦略があった上で、学習というメカニズムを通じて、従業員が適切な行動をとってくれるように促すことが重要なのです。

中原

こちらの図のように、人材開発は「直接的」に利益につながるのではなく、「間接的なメカニズム」を通じて実現されます。学習が社員の行動変容を導き、戦略と同期することによって、間接的に利益に貢献することができるのです。すなわち、人材開発は、経営の「ラストワンマイル」とも言えます。

リリー

戦略実現につながる行動変容を導くことが大切ということでしょうか?

中原

そうですね。人材開発は「学び」だけでは不十分で、「経営へのインパクト」という観点を持たなければなりません。図にすると、こんな感じです。

中原

縦軸は「人が学んだかどうか」で、横軸は「経営にインパクトがあったかどうか」です。左上の「人が学び、経営にインパクトがある」状態を人材開発と呼びます。
右下の「人が学んでいないし、経営にインパクトもない」状態は論外です。左下の「人は学んでいないが、経営にインパクトはあった」という状態はほとんど起こりえないでしょう。
人材開発で一番陥りやすい落とし穴が、右上の「人が学んでいるが、経営にインパクトがない」状態です。学んだ直後はモチベーションが上がるものの、現場に持ち帰ると冷めてしまう「学び温泉」状態です。これは人材開発とは呼べません。
学んで終わりではなく、経営にとってよいことをする、インパクトあることをするのが人材開発です。

リリー

人材開発は「学び」を意識するだけでは不十分なんですね。「学び温泉」の状態を避けるために、人事担当者が意識することはありますか?

中原

人事担当者は、学びを考えすぎてしまうケースが多いので、意識的に「両脳」を使う必要があります。両脳を使うというのは、脳の半分では、どのように経営へのインパクトを起こすかについて考えながら、もう半分は、どのような学びを作り、行動変容を起こすかについて考えるということです。人材開発担当者には「両利き」が求められます。

リリー

具体的には、どのように両脳を使っていくのでしょうか?

中原

現在の学びによって、何か経営にとってよいことが起きているのかを常に確認するようにしましょう。また、バックキャストして、経営へのインパクトのために、誰のどんな行動を変えるのかを考えることが大切です。研修などの実施が目的化するのではなく、その先にどのような経営目標があるのかを意識しなければなりません。

リリー

学び自体が目的化しないように注意する必要がありますね。ちなみに、経営へのインパクトをもたらせたかどうかは、どのように測ればいいのでしょうか?

中原

人が学んだだけで、企業に直接お金が入ってくるというのは、ほとんど期待できません。そんなことならば、仕事なんかしないで、研修室で研修だけやっていればいいことになるでしょ。
でも、学びは無力ではありません。学びにより、行動が変化することで、間接的に経営へのインパクトが期待できます。基本的に「行動変容」までが人材開発の責任範囲になります。人材開発の施策を実施して、しばらく経ってから「従業員の行動がどのように変化したか」が、一番の成果指標になると思います。

リリー

経営目標や戦略の実現のために、誰のどんな行動を変えるのかを意識して、人材開発をしていくことがポイントなんですね!

大人の学びは「お好きになさい」の世界⁉

リリー

「学び」という点では、誰もが学校で学んだ経験を持っていると思いますが、学校教育と企業の人材開発では、どんな違いがあるのでしょうか?

中原

高校までは、学習指導要領で、何をどのような順で学ぶのかが決められていて、それに沿って先生が教え、生徒が学びます。一方で、大人の学びは、基本的には「お好きになさい」の世界だと思っています。ただし、趣味などであれば自腹ですが、企業内の学びは企業がコストを支払っています。ですから、学びを活かして、自分の業務やビジネスをどのように拡大・拡張していくのかを考える責任があるのでないでしょうか。

リリー

学んだことを活かす意識が大事なんですね。たとえば、学びに対して消極的な従業員がいたときに、人事としては、どこまでフォローすればよいのでしょうか?

中原

厳しいことを言うようですが、良くも悪くも、大人になったら、その人がどんな選択を取ろうとその人の責任です。学ぶも学ばないも本人の責任になります。もし企業の観点で言うのであれば、これからの時代を考えると、何か一つのものに打ち込んで、学び続けている「学習可能性がある人」を採用したほうがいいと思います。

リリー

将来は「学習可能性」が採用のキーワードになるかもしれないですね。

中原

ただ、問題なのは、そういう人を採用したとしても、入社して2~3年で学びを手放してしまう人が多いことです。一度手放してしまうと、なかなか学びの習慣を戻すのは難しいので、自分の学びは手放さないという覚悟を持ったほうがよいです。自転車を漕ぐのと一緒です。一度漕ぐのをやめ、再び漕ぎ始めるには、ものすごく初動負荷がかかるので、一旦学び始めたら、学びの習慣はやめないことをおすすめします。

リリー

人事としては学びを手放さないためのサポートができるとよいのかなと思いました。それと個人的にもドキッとしました……。私も学び続けます!

人事担当1年目は、2年目のひとさじを加えるための下準備期間

リリー

新しく人材開発の担当になった方へのアドバイスはありますか?

中原

たとえば、別の部署からの人事部へ異動になったとしたら、戸惑うし、つまずくとも思います。特に事業部門から異動してくると、追うべき数値目標や締め切りがないので、別の世界に来たように感じるでしょう。戸惑うことは当たり前です。
ビジネスの世界が変われば、学び直しが必要になります。人事の世界を遠ざけるのではなく、一回冷静に観察し、情報収集してみてください。おそらく人事用語がたくさん転がっていると思います。網羅的でなくて構わないので、自社の理念に関係ありそうなこと、重要なことに注目し、少しずつ学んでいくと知識は伸びると思います。

リリー

日頃の業務で意識するべきことはありますか?

中原

まずは研修を運営したり、OJT施策を回したりといった、日々の業務を任されると思います。1年目からすぐに何かを変えることは難しいので、2年目以降に「自分なりのひとさじを加える」としたら、どのような工夫ができるか、を考えながら取り組むことが大切なのではないでしょうか。

リリー

慌てずに少しずつ学びながら、2年目以降の工夫を考えることが大切なんですね。人事や人材開発の知識を、効率的に学ぶにはどうしたらいいですか?

中原

学びにおいては、コスパを考えないほうがよいです。とりあえず、気になったものをかじってみてください。かじってみると、もちろん「うわ、まずい……」となるものもありますが、自分に向いていないものは直ちにやめればいいんです。大人の学びは「自由」なのですから。お好きになさいな、です。学び続けると、自分に向いていることがだんだん見つかるようになります。つまり、おいしくないものも食べなければ、自分にとっておいしいものは見つからないと思います。

リリー

ちなみに、中原先生に合わなかった学びはありますか?

中原

仕事ではないのですが、お茶(茶道)に挫折しました。30歳の時にお茶教室に参加したんです。道具も全部そろえて、やる気満々で行ったんですが、始まって30分ぐらいでギブアップしました。いえ、茶道の問題でも、先生の問題でもないのです。わたしにあわなかった、というだけです。誤解なさらないでください。茶道のお手前は、僕という人間のなかにある「ハイパーアクティブさ」や「思いついちゃった!、やってみたいという衝動」と衝突してしまう。だから、「ごめんなさい、僕には向いていないと思います」とそのままやめてきました。お金も無駄にはなりました。「授業料」は安くはなかったですが、素晴らしい発見も得られました。おかげさまで「自分は茶道に向いていない」という「知見」が得られました。自己発見できたのですから、無駄ではありません。

リリー

すごい行動力ですね……!

中原

僕も学びに億劫な時もあります。けれど、いろんなことにチャレンジして、「順序立ててやることが苦手」ということに気がつけたので、大収穫だったと思います。

リリー

最初から効率的に学ぼうとするよりも、気になったものはかじってみて、自分に合うものを見つけていくことが大事なんですね。

中原

そうですね。リリーさんのように取材して記事を書くとして、ライティングを上達させたいんだったら、ライティングの講座に行けばいいですし、コピーライトに興味があれば、それを学べる講座に通うのもいいかもしれない。自分の仕事に紐づくようなものを1個でも2個でも学んでいくと、だんだん専門性らしきものが出てくる。そうした専門性みたいなものが、10年目ぐらいで、私はこういうことをやってきたという自信になります。

リリー

専門性はだんだんと育まれるんですね。10年後が楽しみです! 人事の領域についても学びを積み重ねていきたいと思います。本日はありがとうございました!

記事構成・編集

株式会社ダイヤモンド社 HRソリューション事業室 西村衣織 (リリー)

2001年3月生まれ、愛知県出身。立教大学 経営学部 国際経営学科を卒業後、2024年に新卒入社。大学時代は、人材・組織開発について学び、「人や組織の成長に貢献するコンテンツ作りに挑戦したい」という思いから入社を決意。趣味は、旅行とグルメ。

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