「フィードバック」とは? 職場メンバーの行動を変えるための7つのポイント【中原淳教授インタビュー Part2】

株式会社ダイヤモンド社 HRソリューション事業室 西村衣織 (リリー)

  • ダイヤモンドHRD総研

ダイヤモンドHRD総研・かけだし研究員リリーが、HR領域のエキスパートのもとへ学びに行く企画。いまさら聞けない、人事のキーワードについて教えてもらいます。第2回目は、人材開発/組織開発のエキスパート・中原淳先生に「フィードバック」について語っていただきました。(聞き手/ダイヤモンド社 HRソリューション事業室・西村衣織)

今回のインタビューは……

リリー

ダイヤモンドHRD総研・かけだし研究員の「リリー」です。

イノ

アシスタントの「イノ」だシシ!

リリー

本連載では、「人事・HRの領域でよく聞くけれど、実はぼんやりとしか理解できてないかも(汗)」なキーワードに関して、かけだし中の私が身体を張って、エキスパートの先生方に“諸突猛進”インタビューします。人事のみなさんに“こっそり”インプットいただける記事をお届けします!

イノ

今回の先生はどなただシシ?

リリー

第1回は、立教大学の中原淳先生に「人材開発」に欠かせない視点を教えてもらいました。第2回も引き続き、中原先生に突撃インタビューします!

イノ

今回は何を教えてもらうシシ?

リリー

今回のキーワードは「フィードバック」です。言いにくいことがとことん言えないタイプなので、フィードバックは苦手なんですよね……。フィードバックに関する本を何冊も執筆されている中原先生にポイントを尋ねてみたいと思います!

イノ

レッツゴーだシシ!

フィードバックとは「成長の鏡」

リリー

中原先生、今回もよろしくお願いいたします!

中原

よろしくお願いします。今回のテーマは何でしょうか?

リリー

今回は「フィードバック」についてお聞きしたいです。相手に改善点を伝えるというイメージがありますが、実際のところ「フィードバック」とは、何でしょうか?

中原

「フィードバック」とは、他人の目を通した成長のための鏡です。つまり、相手の成長や改善に向けて、第三者の目から見た相手の行動について教えることを指します。相手の行動が「他者からどのように見えているのか」を伝えることが非常に重要です。

リリー

外からはどう見えているのかを相手に伝えてあげることがフィードバックなんですね! なんだか、ダメ出しや注意とも似ている気がします……。

中原

確かにダメ出しや注意と似ていますが、いったん「こう見えたよ。」と事実だけを伝え、相手にボールを一回渡すことがフィードバックです。一方で、ダメ出しは「こう見えたよ。」と伝えた後に、「だからダメなんだよ。ここがそうでしょ、ああでしょ。」と決めつけてしまうことです。

リリー

決めつけずに事実だけを伝えるのがポイントということでしょうか?

中原

一方的に決めつけてしまうと、相手は言われたことを受けとる態勢ではなくなってしまいます。フィードバックを受けとってくれないことには、相手が変わることもないので、何の成果にもつながりません。ですから、いったん相手にボールを投げて、キャッチボールする意識を持つことが大切です。

リリー

相手が変わって、成果につながることが重要なんですね!

中原

フィードバックは、部下育成の手段の1つです。あくまでも手段ですので、部下が目をキラキラさせて、成果を出せていたら、必要ありません。しかし、そんな夢のような職場はあまりないので、上司がコミュニケーションをとりながら、部下をケアしていく必要があります。そのコミュニケーションスタイルの中にフィードバックがあり、他にはコーチングや1on1などもあります。1つの手段なので、やらなくてもよい時もあると思います。

リリー

組織に合ったコミュニケーション手段を見つけられるとよいですね!

最高のフィードバックは「対話」とセット

リリー

先生が考える、よいフィードバックとはどんなものですか?

中原

最高のフィードバックは「対話」までセットであることだと思います。フィードバックの意味を狭く捉えてしまうと、現状の通知だけになってしまいます。現状の通知とは、「あなたはこんな感じですね。」と相手に伝えることです。これだけだと、フィードバックを消化しきれず、成果が出にくくなってしまいます。また、心の中で「知ったこっちゃない」と聞き流してしまうケースも出てきますね。

リリー

現状の通知だけだと、不十分ということでしょうか?

中原

そうですね。成果につなげるという点では、「対話」を通じて、受け手が目標設定するところまで手伝うことが重要だと思います。ですから、あえてフィードバックの定義を拡張して、対話までやってほしいというメッセージを込めたいですね。

リリー

フィードバックには、相手が受け取って、行動を変えようとするまでのサポートが必要ということですね。ちなみに、先生がイメージされている「対話」とはどんなものなのでしょうか?

中原

「対話」とは、同じものを見て、それぞれが意見を持ち寄り、相手の目の前にポトンと落とすことです。もっとも基礎になるのは、メンバーが「同じもの」を見て、話し合えているかどうかです。ですので、フィードバックにおける対話では、まず具体的な行動、いつ起きたか、など詳細を話すことで、「同じもの」を見るようにします。その後、「どこを直すべきか」それぞれの意見を出し合って、気づきや発見をしていくことだと思います。

リリー

対話でフィードバックを具体化していくのですね。

中原

たとえば、「商談中の態度が偉そうに見えたよ。」というフィードバックがあったとき、それだけだと具体的に何を直せばいいのかが分かりません。“偉そうな態度”とは、どんな行動で、どんな発言があったのかを対話を通じて、確認していくことが重要です。
そのうえで、フィードバックを活かすか活かさないかはマイチョイスです。対話をして、取捨選択し、これは受け取るけれど、これは受け取らないがあってもいいと思います。

リリー

自分に合ったものを取捨選択していくことも大切なのですね!

フィードバックを効果的にする7つのポイント

リリー

フィードバックをより効果的にするポイントはありますか?

中原

語ると1冊の本が書けそうですが、次の7つにまとめられると思います。

中原

まず1つ目は「具体的に伝える」ことです。「いつ・どこで・誰が・何を・なぜ・どのように(5w1H)」を意識して伝えることが大切です。抽象的に「イマイチだった」と言われると、何を直すべきか分からないフィードバックになってしまう恐れがあります。

2つ目は「決めつけずにはっきり伝える」ことです。「〇〇だったよね。」と決めつけた言い方をしてしまうと、受け手が身構えてしまいます。「〇〇のように見えたけど……。」「私はこんな風に感じたよ。」といった相手が受け取りやすい伝え方がポイントです。ただし、一方で「スパッとした切れ味」も大切です。受け取りやすさを意識しつつも、フワッとしたフィードバックにならないよう、事実ははっきりと伝えることが重要です。

3つ目は「ボールを相手に渡す」ことです。「こう見えたよ。」の後は、「どう思う?」と相手の意見や考えを尋ねるようにします。相手には、反論もあれば、具体化を求めてくるかもしれません。次のボールを相手に渡すことが大切です。

リリー

相手を意識した伝え方ですね! このように伝えてもらえたら、素直に気持ちよくフィードバックを受け取れそうです!

中原

あとは、フィードバックのタイミングも肝心です。

4つ目のポイントは「フィードバックはすぐに伝える」ことです。「3か月前の……」と言われても辛いと思います。期間があくほど、記憶も曖昧になり、何をしていいか分からなくなってしまいます。基本的には即時フィードバックを心掛け、難しい場合も1~2日以内にはしたほうがいいでしょう。

5つ目は「フィードバックは1つずつ」です。あれもこれも伝えると、受け手は、行動に移しにくくなります。もし伝えたいことが複数出てきた場合も、行動をすべて正そうとするのではなく、優先順位を決め、最初のステップを伝えることが肝です。

リリー

行動へ移しやすくするために、タイミングや量の工夫もできるのですね! フィードバックの内容としては何かポイントはありますか?

中原

フィードバックの内容にも工夫はもちろんできます。

6つ目は「相手の伸びしろを考える」ことです。たとえば、少し背伸びして、今よりも一歩成長できるようなチャレンジだとベストですね! 相手のレベルに合ったフィードバックを伝えるためには、その人の様子を日頃から見ておかないといけません。

7つ目は「すぐに変化できそうなものから伝える」ことです。フィードバックによって行動を変えたものの、成果が実感できないと、続けるモチベーションがなくなってしまいます。おすすめは、少し挑戦すれば、すぐに成果の出そうなものから始め、成功体験を増やしていくことです。

リリー

確かに、すぐに変えられるものだと「明日からやってみよう!」と行動に起こしやすい気がします。

中原

ただし、これらの7つのポイントを実践すれば、必ずすぐに受け手の行動が変わると思ってはいけません。フィードバックは5回に1回くらいしか当たらないものなので、諦めずに伝え続けることが大切です。

リリー

フィードバックを粘り強く継続することが大切なんですね!

フィードバックは「取りに行く」もの

リリー

フィードバックを受ける側のポイントはありますか?

中原

もちろん、フィードバックを受ける側の姿勢も大切です。受け手は、必ず一度フィードバックを受け取ってください。フィードバックをする人は、あなたの成長のために言いにくいことを伝えてくれているのです。何よりも、「言いにくいことを伝えてくれてありがとう。」の気持ちが大切です。この姿勢がなければ、二度とフィードバックしてもらえなくなってしまいます。気持ちよくフィードバックを受けとることで、フィードバックが自然に行き交う組織になっていくと思います。

リリー

フィードバックをする側、受ける側の両者の姿勢が、フィードバックの文化をつくっていくのですね!

中原

フィードバックがあるうちが幸せですよ。年齢が上がれば上がっていくだけ、フィードバックがもらいにくくなります。
私は今年49歳ですが、“勝手に御大化”が始まっているんですよ。中原淳という着ぐるみを剥がしてみると、実は22歳の僕しかいないんだけど(笑)、年齢を重ねると勝手にその道の権威、御大化してきてしまいます。そうすると、私に入ってくる情報は、気を遣って丸まったものが多く、フィードバックをもらうのも一苦労です。
ですから、私の場合は、自分から積極的にフィードバックを取りに行くことを心がけています。たとえば、一緒に仕事をするメンバーには、ィードバックがほしいことを事前に伝えるなどしています。

リリー

フィードバックは、もらうものという意識だけでなく、自分から取りに行くという意識も大切なのですね! 本日はありがとうございました!

記事構成・編集

株式会社ダイヤモンド社 HRソリューション事業室 西村衣織 (リリー)

2001年3月生まれ、愛知県出身。立教大学 経営学部 国際経営学科を卒業後、2024年に新卒入社。大学時代は、人材・組織開発について学び、「人や組織の成長に貢献するコンテンツ作りに挑戦したい」という思いから入社を決意。趣味は、旅行とグルメ。

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