人事図書館館長に聞く|今求められる「人事のプロ」とは?

株式会社ダイヤモンド社 人材開発編集部(ダイヤモンドHRD総研)

  • ダイヤモンドHRD総研

2024年4月にオープンした人事図書館。図書館利用やイベントを通じた会員同士のつながりは、吉田洋介館長が当初想定した以上のエネルギーを生んでいる。今回のインタビューに先立ち、吉田館長から「人事のプロフェッショナル」について話してみたい、というご提案をいただいた。本記事では、人事図書館を開館して見えてきたこと、そしてそれらを通じ吉田館長が考える、今の時代の人事のプロフェッショナル像について、お話を伺った。(ダイヤモンド社 人材開発編集部)

つながる喜びから学びのエネルギーへ

人事図書館が開館して半年が過ぎましたが、どんな景色が見えてきましたか?

人事図書館 館長 吉田洋介さん

人事図書館 館長 吉田洋介さん

 人事図書館の「仲間と学びで未来を拓く」というコンセプトに、クラウドファンディングの段階から共感してくださった方を皮切りに、多くの人が集まってくださいました。立ち上げ当初は、「同じように悩んでいるのは、自分だけじゃなかったんだ」「やっと同じレベルで悩みを分かってくれる人に会えた」という、仲間ができたことの嬉しさや、悩みを分かち合える喜びのインパクトが強かったと思います。

 それだけでも十分な手ごたえを感じていましたが、ここ最近は、より具体的に考えたい、学びたいという方に一気に関心が広がってきたことを感じます。その「仲間」から「学び」の領域へと移行していくスピード感とエネルギーに、私も驚いています。

先日のイベントでも、参加者のエネルギーに圧倒されました

『シン・人事の大研究』読書会ですね。立教大学経営学部教授の中原淳先生、立教大学経営学部准教授の田中聡先生、『日本の人事部』の長谷波慶彦さんにお越しいただきました。尊敬する先生方にお越しいただけたことが、個人的にも本当に嬉しかった。オンライン・オフライン合わせて50名以上の図書館会員が参加し、語り合いました。

 そこから、自分たちがやりたいこと、やるべきことが整理でき、同時にその実現のための次のテーマが見えてきたというのが、このイベントでの成果だったと思います。

 先生方の強い後押しで、人事の必要性も期待も高まって行くこれからの時代に、自分たちが主役になっていくんだ、という力強いメッセージも共有できました。

「人事のプロ」が求められている

イベントのテーマのひとつでもありましたが、組織の成長に貢献するため、どのような人事戦略が必要だとお考えですか?

 イベントの中で、「経営に対して成果を上げていく人事とは?」「人事がそこにコミットするためにはどうしていくべきか?」という議論が繰り返し出てきました。今こそ人事の役割を再定義し、経営にインパクトを与えるような成果を出せる「人事のプロフェッショナル」が求められているのではないかと思っています。

事前にいただいたキーワードが出てきましたね。「人事のプロフェッショナル」、使う人、受け取る人によっていろんなイメージが浮かびそうな言葉です。ではそのあたりを、もう少し詳しくお聞かせいただけますか。

 ここからは簡単に「人事のプロ」と言わせていただきますが、この話をご理解いただくため、先に歴史的な話をすると、戦後から高度経済成長期にかけては人を大量に採用する、同時に労働者が搾取されないよう守る、という経営側、労働側の両側面で、どの会社の人事も大体同じような方向を目指していた時代でした。その後バブル崩壊を経て、分かりやすい方向が見えなくなって、最近では少子化や個を重視する風土へと環境がどんどん変わっています。

人事が何をするべきかが、見えづらくなっています。それなのに人事における課題認識や目指す方向は、高度成長期と本質的には変わらないまま、なんとなく進んできていると感じています。

どうしてこれまで、課題や方向性は変わらなかったのでしょうか。

 端的に言ってしまうと、考えなくてもなんとかなる状況だったんです。例えば採用が難しいといっても、まだどうにか採れていた、パワーハラスメントにつながるような接し方をしても、そこまで人はすぐに辞めなかった、というようなことです。

 それがSNSで他の会社のことを簡単に知れるようになり、転職への抵抗感も減ってきた。同時に転職するための仕組みも整ってきました。

 最近ではハラスメント対応やSNSの広がり、コロナ以降のワークスタイル変化など、人事に求められる内容は一気に増えています。ただそれらすべてに一生懸命応えたとしても、会社の方向に沿った内容でない限り、ただ疲弊するだけで成果にもつながらないし評価もされない、ということが起こりやすい状況になっている。

 先日のイベントでの中原淳先生の言葉をお借りすると、いよいよ「待ったなし」になった、と言えるかと。だからこそ今、「自分たちはこの会社において、人事として何の成果を出すために存在しているのか」ということを各社でもう一度定義していかなければいけないと感じています。

実行部隊の認識を捨て、自分たちが課題を設定する

人事図書館 館長 吉田洋介さん

人事の役割の再定義と一口に言っても、実際に進めるのは難しそうですね。

 その通りです。課題を解決する前の、誰が課題を設定するのか、対策を進めていくのかという点から曖昧な会社が多いと思います。以前人事図書館で行ったイベントの中に、非常に印象的なものがありました。40人くらいの参加者がいましたが、その中の一人が、「経営側からも現場側からも、日々いろんな方向からたくさんの要望が来るんだけど、それらのうちどれが優先順位の高い課題だと決めるのは、誰なんでしょうね」という問いかけをされました。

 その時、一瞬全員がシーンとなったんです。誰も答えられなかった。その後、「社長じゃないか」「結局なんとかしたい人が決めるんじゃないか」などいくつか意見が出た後、「それこそが自分たち人事の役割なんじゃないか」という気付きに至ったんです。

 人事部には、基本的には経営層が決定したことを遂行する実行部隊だという自己認識があると思います。でも一方で、従業員満足度調査とか離職率などのサーベイや数値からでは読み取れない生の情報を、組織を横断して持っているのは人事なんです。

 経営の実行部隊やただ従業員に寄り添うという認識から抜け出して、自分たちが課題を決めて経営側に提案するべきではないか。非常に大きな壁ではあるけれど、一方でそこに向き合いたい、やって行きたいという機運も高まっています。

現場と経営に肉薄し、自分軸で考え抜いて方向を示す

その壁は、やる気や意識だけでは超えられないように思いますが、それを超えるための具体的なアプローチのようなものはあるのでしょうか。

 ある利用者さんが教えてくださったのですが、業務量が多くて社員が疲弊しているという状況で、経営者から「業務量を減らすが、1年後従業員全員の給与が1割程度減るという道と、今は苦しいが、このまま頑張って1年後全員の給与が1割上がるという道のどちらがいいか」と聞かれたそうです。

 「どちらかではなくて、従業員が疲弊せずに、待遇も改善できる道を選びたい」と人事としては主張したいのだけれども、「いつまでに、どんな成果を出してくれるんだ」と問われると、答えられなかった、と。

 私がこうした状況で必要だと思うのは、「どうやったら自社の従業員が本当の意味で幸せになっていくのか」とか、「この組織が願っていることが、本当の意味で実現されるのはどういうことか」を突き詰めて考えることだと思うんです。

 その過程で経営者や現場に何度も話を聞きに行って、いわば肉薄して迫って、自分なりに分かった、見えたという状況になるまで持って行くということだが必要だと思うのです。

 「だからこの会社にはこれが必要なんだ」と自分が一本筋を通して言い切れるようになれば、経営者も話を聞いてくれるようになる。つまり、人と組織の領域に関してとことん考え抜いて、自社がどの方向に向き、何をするべきかを示せる人が、私の考える「人事のプロ」像です。

成果にこだわり、周囲の人を動かす

どういう人がプロになっていけそうですか。

 この半年あまりの間に数百人以上の人事の方のお話をうかがう中で、人事として、いわゆるプロだなとか、成果を上げているなと思う方々に、ある程度共通しているものが見えてきました。それは、人事経験の厚さみたいなことよりも、人事での経験に限らず、例えば営業時代でもいいのですが、何がなんでも成果を上げるという経験をしていること。それからもう一つ、自ら学びながら、周囲にうまく助けてもらっているということです。

この2つの要素を持つ方々が、人事として成果を上げている方々に共通していると感じています。

人事図書館 館長 吉田洋介さん

吉田館長の考える「人事のプロ」像が見えて来ました。一方、会社経営を考えると、今お話いただいたような心構えに加え、数値的な成果を示すことが求められそうです。後編ではより踏み込んで、具体的な方法についてお話いただきたいと思います。


後編では、『自分たちが主役となり、経営にインパクトを与える人事のプロの8箇条』をテーマに、経営に資する成果を生み出す具体的な方法について、さらに掘り下げてお話しいただきます。(近日公開)

お話を伺った方

人事図書館 館長 吉田洋介さん

立命館大学院政策科学研究科卒。卒業後、2007年リクルートマネジメントソリューションズに入社。海外事業立上、九州支社長、スクール事業責任者などを歴任。2021年3月株式会社Trustyyleを設立し、人事不在の企業を中心に組織作りの支援を行う。170名の有志と共にクラウドファンディングで472名から支援を受け2024年4月人事図書館を設立。これまで500社以上、スタートアップから大手企業まで幅広く、採用、人材育成、組織開発、人事制度策定などを経験。壺中人事塾では毎年30-40名ずつの参加者と共に人事の学びの場を磨き続けている。人事図書館ホームページはこちら

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