組織開発を実践する方法とは?注意点と実践のポイント 【中村和彦先生がわかりやすく解説】
更新日:
- ダイヤモンドHRD総研

ダイヤモンドHRD総研・かけだし研究員リリーが、HR領域のエキスパートのもとへ学びに行く企画。いまさら聞けない、人事のキーワードについて教えてもらいます。第8回目も前回に引き続き、中村和彦先生に「組織開発」について語っていただきました。(聞き手/ダイヤモンド社 HRソリューション事業室・西村衣織)
今回のインタビューは……
リリー
ダイヤモンドHRD総研・駆け出し研究員の「リリー」です。
イノ
アシスタントの「イノ」だシシ!
リリー
本連載では、「人事・HRの領域でよく聞くけれど、実はぼんやりとしか理解できてないかも(汗)」なキーワードに関して、かけだし中の私が身体を張って、エキスパートの先生方に“諸突猛進”インタビューします。人事のみなさんに“こっそり”インプットいただける記事をお届けします!
イノ
今回の先生はどなただシシ?
リリー
前回は、南山大学の中村和彦先生に「組織開発」について詳しく教えていただきました。今回も引き続き、中村先生に突撃インタビューします!
イノ
今回は何を教えてもらうシシ?
リリー
前回に引き続き、「組織開発」についてお聞きします。今回は、職場での組織開発の実践に向けてお話を伺いたいと思います。マネジメントや人事に携わる方は、ぜひ読んでいただきたいです。
イノ
レッツゴーだシシ!
組織開発のほとんどが機能していない?
リリー
中村先生、今回もよろしくお願いいたします!
中村先生
よろしくお願いします。

リリー
引き続き「組織開発」についてお聞きしたいです。前回は前向きなお話をたくさん伺うことができましたが、一方で現状、組織開発における課題は何でしょうか?
中村先生
組織開発の認知度は高まってきていますが、大きな課題は「組織開発の手法をやること=組織開発」だと思われてしまっていることです。例えば、サーベイ・フィードバックや1on1といった手法がありますが、「手法さえやれば組織開発である」という風潮があるのです。しかし、実際にサーベイ結果を現場に伝えるだけでは、職場は良くなりません。
リリー
手法だけがひとり歩きしてしまっているということでしょうか?
中村先生
組織開発には「構造化された組織開発」と「構造化されていない組織開発」の2通りあると言われています。「構造化された組織開発」は、特別な場を設計して、その中で対話を促すものです。例えば、サーベイ結果をみんなで話し合う対話を年に1回行う、といった単発のイベントのようなものです。一方で、日頃から花に水やりをするように、自分たちの職場の協働をもっと高めるために、日常的に業務に取り組みながら対話をしていくのが、「構造化されていない組織開発」です。
「構造化された組織開発」の取り組みのみが組織開発だと思っている人は少なくありません。「サーベイ結果について対話すれば、それで組織開発だ」といった考えは誤りです。本来、年に1回1時間の対話をしただけで組織が良くなることはなく、日頃のやり取りや関係構築から取り組まないといけません。
リリー
単発の取り組みで組織開発をやった気になっていてはダメなんですね。
中村先生
本当に重要なのは、特別に作られた対話の場だけでなく、日頃からお互いの関係性を熟成させていくような関わり方や働きかけができることです。日頃から「自分たちの組織を自分たちでよくしよう」という意識や行動ができる人が増えていく必要があると思います。もっと言えば、チームづくりを担うマネジャーが、職場メンバーといっしょに「自分たちの職場をみんなで良くしていきましょう」というマネジメントができるようにならなければなりません。
リリー
組織をよくしていきましょうというポジティブな雰囲気を作る人は大切ですね!
組織開発に取り組むポイント①味方や仲間を増やす
リリー
組織開発を実践していくうえで、ポイントはありますか?
中村先生
ポイントは、組織開発を推進していくうえで重要な関係者を押さえていくことです。例えば、大きな企業の場合は、組織開発にお金を出すスポンサー、すなわち、社長や人事担当役員、人事部長を味方につけることがまず必要です。彼らの理解がないと組織開発は広がっていきません。
次に推進部隊です。人事部の中に組織開発室や人材組織開発部のような形で、組織開発の推進を担うチームをつくることが必要です。さらに贅沢を言えば、中央で組織開発を設計し、推進する人たちに加えて、現場で組織開発を実施したいが、自分たちではできない部署のために、現場のパートナーとして援助できる人がいるとよいでしょう。HRBP(Human Resources Business Partner)がその機能を果たしている会社もあります。HRBPが組織開発の理論と実践を身につけて現場の支援をする、あるいは、現場の中で組織開発のことを理解して推進できる人を育てていくという形もあります。
また、マネジャー研修で組織開発を導入している会社もあります。マネジャーに職場づくりやチームづくりの研修をして、マネジャー自身が職場を良くしていく方法を知り、日頃から実践します。そのような見方や仲間を増やしていくことが重要です。
リリー
組織開発の実践にもチームや味方、すなわち関係者は必要不可欠なのですね。
中村先生
必ずしも、組織開発という名前でなくても、「良いチームを増やしましょう」「対話ができる組織にしていきましょう」でも大丈夫です。ともかく、対話を通しての協働づくりに意味があるということを、会社全体でやっていく体制が必要です。
リリー
「組織開発は意味がある」ということを、会社全体に理解してもらい、チームを作っていくのですね。
中村先生
そうですね。組織開発は、ある種の風土改革みたいなところがあります。「個人戦で業績だけでいいでしょう」という風土のところで、いきなり組織開発をやっても、マネジャーが変わったらまたすぐ元に戻ってしまいますよね。そういう意味では、会社全体として、「協働できる風土にしていきましょう」「個人戦ではなく団体戦で勝てる組織を目指しますよ」といった大きな方針とリーダーシップが必要です。それがないと、「なんで今まで業績、業績って言ったのに急に協働って言い出すの?」と社員が混乱してしまいます。先ほどお話しした、2番目の関係者である推進部隊が、どんな戦略で組織開発を進めるか、全社的に浸透させるか、ということをじっくり考える必要があります。
リリー
何をするかだけでなく、なぜやるのかをしっかりと組織全体に伝えていくことがポイントですね。
組織開発に取り組むポイント②魂をこめる
リリー
組織開発の推進担当者が中心になって進めていくというお話ですが、その上のスポンサーの理解があまり進んでおらず、指示だけ行い、非協力的な企業も多くあると思います。
中村先生
1on1が話題になったときに、その現象が顕著に起こりました。「他社が1on1で成功しているから、我が社もやりなさい」と社長からオーダーが入る、ということがあったんですよね。そして、人事は一生懸命1on1の仕組み化をして、「2週間に1回、1時間1on1をやってください」と指示を出したのですが、完全に形骸化してしまいました。それは何故かというと、まさに方法先行で「手法をやりなさい」と命令されただけで、どうやってやるかという指示もなければ研修もない。マニュアルを作って配布する企業もありましたが、マニュアルを読んだだけでしっかり1on1ができるのは、ほんの一握りの素晴らしいマネジャーであって、皆ができるわけではありません。
リリー
現場に丸投げでは、うまくいく可能性は低く、継続も難しそうです……。
中村先生
「これをやりなさい」という命令だけで、魂のこもっていない取り組みを推し進めても、ほとんどのケースでうまくいきません。効果をあげるためには、研修やフォローアップをする必要があるし、うまくいってないところに対しての支援も必要です。うまくいった理由やうまくいかない原因に関する調査や評価も必要になってきます。
1on1も上司と部下の関係性を扱うので、人間的側面を扱う際に何が重要かということを知っておく必要があります。特に組織開発を推進する人やパートナーとして現場を支援する担当者が、組織開発の何が大切であり、どんなふうにプロセスが良くなっていくのかということを理解していることが重要です。それは組織開発の講座に行ったりしないとなかなか分からないことなので、組織開発を学ぶということが大事になってきますね。
リリー
機能しない手法を取り入れるのではなく、手法に魂をこめることがポイントですね!
明日からできる組織開発の第一歩
リリー
組織をよりよくする取り組みの第一歩として、何か明日からできることはありますか?
中村先生
原理からいうと、5分でもいいのでプチ振り返りができるようになるのは、すごく大事です。例えば、会議が終わる最後の5分間でできる「今の会議の進め方・話し合いの仕方はどうでしたか?」といったような問です。ほかには、プロジェクトの節目で、「このプロジェクトが全体として上手くいっていたのはどこで、伸びしろだと思ったところはどこですか?」などの振り返りの対話が大切ですね。チームとしての経験学習が進みます。組織開発ってカタカナ用語の手法が多いのですが、本当に一番大事な本質は「ともに振り返って現状について対話する時間を持つ」ことではないかと思います。
リリー
単に振り返りではなく、「ともに」振り返ることがポイントなのですか?
中村先生
そうですね。ともに振り返ることで、チームとしての状態の認識が合います。チームとしての認識が合うと、自然と変化が起こるようになります。組織開発は、チームレベルの経験学習のようなものです。個人レベルで経験学習をするケースが多いですが、個人だけが学習して変化しても、組織の変化にはなかなか繋がりませんので、チームとして「ともに振り返る」ことが大切です。
組織の個人戦派閥と団体戦派閥
リリー
組織開発は、みんなで協力的に取り組むことが大切なのですね。ただ、一人だけチームの中で協力的じゃない人がいた場合はどうしたらいいのでしょうか……?
中村先生
どの組織にもいますよね。最初から全員が同じように、振り返りや組織をよくしていく取り組みに関与してくれるわけではありません。ですので、組織開発に前向きな人がどんどん推進していき、「なんだかいいかも」という雰囲気をつくっていくことが大切です。もう一つは、マネジャーや職場のリーダー的存在が推進することにも意味があります。推進力を持った人が、組織開発の意味づけを伝えて、巻き込んでいくことが必要です。
リリー
組織開発を取り組んでいくうえで、このようなぶつかりは切っても切り離せませんね。
中村先生
組織には、現状を変えたいと思う人と現状のままで良いと思う人はいるので、抵抗は必ず起こります。最初からみんなが賛同する組織はすでに変化しているので、抵抗する人もいながら推進する人が引っ張っていくような過程が大事だと思います。そこに正解はなく、「こうすればよい」という答えのある問題はありません。様々な人が様々な意識やマインドを持ち合わせているので、色々な働きかけが必要になると思います。
そもそも組織開発の抵抗感のベースにあるのが、「個人戦で業績を上げればよい」というマインドと、「団体戦で協働することで結果として業績が上がる」というマインドの対立です。そういう考えのまるきり異なる人たちが、同じ方向を見ながら、チームや組織を作っていくという役割が組織開発にはあると思います。
リリー
そういった方と「個人戦がいい」という方と「団体戦がいい」という方は、最終的にはうまくやっていけるのでしょうか?
中村先生
このような好みは、過去の経験からなるものです。例えば、営業に多いのですが、個人で成果を上げてきた人は、やはり効率的に「個人戦がよい」というと思います。そういう方が、「みんなで助け合い、教え合いながらチームとしてやっていくことが大事である」と学習する場面があると、考えも変化していきます。しかし、これにも正解がありません。団体戦が好きな人の中には、時々「ぬるま湯」的な人がいるんです。
リリー
ぬるま湯とは何ですか?
中村先生
ぬるま湯は、手抜きのことです。そういう方は、もう少し業績マインドセットが必要で、個人で力を発揮していくという考え方を取り入れる必要があります。先ほどお伝えしたように正解はなく、世の中の与党と野党みたいなものです。時代の流れによって、どっちが主流かによると思います。バブル経済崩壊したばかりのころは、個人戦による業績マインドセットの人だらけでした。現在、組織開発が支持を得ているのは、人を育て、チームを作ることが結果として業績につながると考える人が少しずつ増えてきているからです。特に経営層や役員クラスにこのような考えの人が増えていることにより、組織開発への関心が高まっています。しかし、経済状況がまた悪化すると、業績マインドセットの人が増えますね。入れ替わりというか、世の中の流れでいつも変わるのでしょう。
中村先生おすすめの組織開発を学ぶための本
リリー
組織開発についての理解を深めることができました! 最後に組織開発の担当者になったら、第一歩目として何からスタートすればよいのでしょうか?
中村先生
まずは組織開発の勉強からですよね。最初の学びにはこの二冊がおすすめです。
全体的な流れを掴むなら、『マンガでやさしくわかる組織開発』(日本能率協会マネジメントセンター)。具体的な手法を知りたいなら、『マネジャーによる職場づくり 理論と実践』(日本能率協会マネジメントセンター)です。
さらに組織開発を深く学びたい方は、『組織開発の探究』(ダイヤモンド社)がおすすめです。
リリー
まずは、最初のおすすめいただいた最初の二冊を読んでみようと思います!本日は、ありがとうございました。

記事構成・編集
株式会社ダイヤモンド社 HRソリューション事業室 西村衣織 (リリー)
2001年3月生まれ、愛知県出身。立教大学 経営学部 国際経営学科を卒業後、2024年に新卒入社。大学時代は、人材・組織開発について学び、「人や組織の成長に貢献するコンテンツ作りに挑戦したい」という思いから入社。趣味は、旅行とグルメ。
資料請求
サービスに関する説明資料を無料でお送り致します。
資料請求するお問い合わせ
人事課題に役立つメルマガ配信中
メルマガ読者限定で、ダイヤモンド社書籍のプレゼント企画、人事課題解決のノウハウ資料・セミナー、サービスの効果的な活用のヒント、などの情報をお届けします。(登録無料、登録情報はメールアドレスのみ、退会はいつでも可能)
