アンラーニングとは?目的と実践のポイント【松尾睦先生がわかりやすく解説】
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- ダイヤモンドHRD総研

ダイヤモンドHRD総研・かけだし研究員リリーが、HR領域のエキスパートのもとへ学びに行く企画。いまさら聞けない、人事のキーワードについて教えてもらいます。第6回目は、松尾睦先生に「アンラーニング」について語っていただきました。(聞き手/ダイヤモンド社 HRソリューション事業室・西村衣織)
今回のインタビューは……

リリー
ダイヤモンドHRD総研・駆け出し研究員の「リリー」です。

イノ
アシスタントの「イノ」だシシ!

リリー
本連載では、「人事・HRの領域でよく聞くけれど、実はぼんやりとしか理解できてないかも(汗)」なキーワードに関して、かけだし中の私が身体を張って、エキスパートの先生方に“諸突猛進”インタビューします。人事のみなさんに“こっそり”インプットいただける記事をお届けします!

イノ
今回の先生はどなただシシ?

リリー
前回は、青山学院大学の松尾睦先生に「経験学習」の職場での実践法について教えてもらいました。今回も引き続き、松尾先生に突撃インタビューします!

イノ
今回のキーワードは何だシシ?

リリー
今回のキーワードは「アンラーニング」です。あまり聞き慣れない言葉ですが、経験学習をより効果的にするために必要不可欠なようです。『仕事のアンラーニング』(同文舘出版、2021)を著した松尾先生に「アンラーニング」のポイントを教えていただきます!

イノ
レッツゴーだシシ!
アンラーニングとは「学びほぐし」と「アップデート」

リリー
松尾先生、今回もよろしくお願いいたします。

松尾
よろしくお願いします。

リリー
今回は「アンラーニング」についてお聞きしたいです。最近注目されている「アンラーニング」とは、何でしょうか?


松尾
一言でいうと、アンラーニングとは「学びほぐし」のことです。私たちの知識やノウハウは、時間の経過とともにどうしても凝り固まってしまいます。そこで、カチカチになった知識を柔らかくし、新しく組み直す「アンラーニング」が必要になります。状況の変化に合うように、ソフトウェアのバージョンがアップデートされますが、それに似ています。ビジネスパーソンとして成長し、成果を出し続けるには、こうした学びのアップデートが不可欠です。

リリー
学び続けて、自分のアップデートをするということなのですね!ちなみに、最近アンラーニングが注目されているのには、何か理由があるのでしょうか?

松尾
大きな理由として、激しい環境の変化によって、自分の今あるスキルや考え方が陳腐化してしまう懸念があるからです。私は去年還暦になったのですが、私たちが新人のころは“Z世代”ならぬ“新人類”と呼ばれ、「彼らは何を考えているか分からない」と言われていました。今のZ世代に言われているようなことは、昔から常にあったわけです。部下が新しく入れば、上司の育成やマネジメントの仕方も変える必要があります。社内に限らず、顧客の好み、社会や経済の情勢など、環境の変化に応じて、新たな知識やスキルを身に付けていかなければいけません。最近は特に社会の変化が激しくなっているので、アンラーニングの重要性が増しているのだと思います。

リリー
スキルを変えていくという点では、昨今「リスキリング」という言葉も耳にしますが、アンラーニングとはどのような関係にあるのでしょうか?

松尾
端的に言うと、「リスキリング」とは、異なる職種に移動したときに必要な仕事のスキルを身に付けることを指します。また、リスキリングと併せて覚えておきたいのが、「アップスキリング」です。「アップスキリング」とは、今の職務で求められるスキルのレベルをアップすることを指します。
リスキリングは「横移動」、アップスキリングは「縦移動」のイメージです。長期的な視点で見ると、この2つはどちらも欠かせません。「横移動」だけでは、AIに仕事を奪われてしまいます。だからこそ、AIが対応できない、よりレベルの高いスキルを得る「縦移動」が大切なんです。そうしたリスキリングやアップスキリングを実践するうえで、今までの考え方を変え、仕事のやり方を見直す「アンラーニング」が必要不可欠になります。


リリー
リスキリング・アップスキリング・アンラーンはセットですね!
すべての人に求められるアンラーニングの力

リリー
以前のお話を踏まえると、アンラーニングは若手よりも、仕事の型が固まってきた中堅社員以上の方向けのようにも感じたのですが、誰しもがやった方が良いのでしょうか?

松尾
全世代で必要なことだと思います。若手でも、仕事のスタイルを確立する過程において、試行錯誤しながらアンラーンする必要があります。自分の考えをほぐしたうえで新しいことを吸収すると、より大きな成長につながります。
一方で、シニア層にとっても、アンラーニングは非常に重要です。会社の中で今まで管理職だった方が、役職定年で急に肩書きを失って、喪失感を抱くケースも少なくないようです。さらに退職となると、生活も大きく変化します。そうした新しい環境にスムーズに溶け込めるかどうかの決め手がアンラーニングです。シニア層であっても、今までの自分の価値観に固執せず、経験がないことや苦手なことにも積極的に挑戦して、新しい環境に飛び込んでいくことが大切になってきます。

リリー
アンラーニングは年齢を問わずに大切なんですね!

松尾
余談ですが、うちのチワワはとてもアンラーンしています(笑)。

リリー
チワワもアンラーンですか!?

松尾
うちのチワワは散歩が大嫌いで、散歩に行かないために、様々な戦略を試みているんです。その方法が通用しなくなったら、それをやめて、新しい手を考えてきます。まさにアンラーニングです。逃げ回りながらも、毎日いろいろな手立てを編み出しています。


リリー
例えばどんなことをするんですか?

松尾
ソファの下に潜り込んで出てこないんです。そこで、ソファの下に詰め物をして潜り込めないようにしました。ソファ作戦が通用しないので、今度は、小さな箱型の寝床の中にズボッっと入って出てこないんです。前は振ったら出てきたんですが、最近は足でグーッと中で踏ん張って出てきません。という具合に、通用しなくなった方法を捨てて、新しい手を考え出してきます。

リリー
アンラーンは、誰しもが必要なことなのですね(笑)。
断捨離に似ている!? 「アンラーニング」を効果的にするポイント

リリー
アンラーニングを実施していくうえで、大切なポイントはありますか?

松尾
今回は3つのポイントをお伝えします。
まず1つ目は、「小さなことから取り組む」ことです。いきなり、大きなアンラーンをしようとすると途中で挫折しやすくなります。だからこそ、やりやすい部分からやめていくことが大切です。まさに、断捨離と同じです。最初は捨てるのが嫌でも、一度捨て始めればどんどん捨てられるようになるものです。例えば、「なんでこんなことやっているんだろう」といった、やらなくても済むような「謎の習慣」、みなさんにもありませんか? そういうものから止めていくと、少しずつ「アンラーン癖」のような弾みがつくようになります。


リリー
まずは意識的に捨てることからですね!

松尾
2つ目は、「環境を変える」ことです。同じ環境にいるときよりも、今までと全く違う環境に身を置くときの方が、必然的にアンラーンをすることになります。私自身も、青山学院大学に来る前までは20年ほど国立大学にいましたので、私立大学の仕組みとは異なる中で働いていました。そのため、異動したばかりの頃は、職場に適応していくために経験学習をぐるぐる回し、アンラーンをして、教育の仕方も含め、どんどん変えざるをえませんでした。チャンスがあれば、新しい環境に身を置くことで、自然と学びや成長を加速させることができます。


リリー
会社以外でも、例えば習い事を始めてみるということでも、アンラーニングのきっかけになるんですか?

松尾
習い事も含め、状況を変えることや新しく何かを始めることは、アンラーニングのきっかけになります。例えば、最近は副業を認める企業が増えていますが、これも一種のリスキリングのきっかけとなり、学びほぐしの機会になります。新たな取り組みの中で、自分の考え方や仕事のやり方を見つめ直す良い機会になるからです。また、自分が取り組めそうな活動や、手ごたえがあることを選ぶと、モチベーション維持にもつながります。

リリー
環境から変えていくのも手なのですね!

松尾
3つ目は、「他者を巻き込む」ことです。自分一人でアンラーンするのではなく、仲間と一緒に取り組むことや、周りに宣言することもおすすめです。人と取り組むことで、自分では気づけない部分について、客観的なフィードバックをもらうことができます。ある企業の課長さんの話ですが、部下に仕事を任せるのが苦手で、つい自分で抱え込んでしまう癖があったそうです。そこで、その課長は部下たちに「これからは仕事をあなたたちに任せます。もし私が口出ししてしまったら、警告してほしい」と宣言しました。そうすることで、課長自身もアンラーニングにより取り組みやすい環境になり、部下に任せることができるようになったようです。


リリー
誰かが見ていると思うと頑張れそうな気がします。
「学び直し」こそ、ポジティブに実践

リリー
学び直しは、今までやってきたことを変えることにマイナスな感情を抱く人もいるかと思うのですが、そういった人にはどのように動機付ければよいのでしょうか?

松尾
学び直しをネガティブなものではなく、ポジティブなものとして捉えてもらうことが重要です。ある企業のマネジャーにアンラーンしてもらうアプローチを紹介します。まずマネジャーがいないところで、メンバーを招集して、マネジャーの良いところと課題を出し合います。その後、マネジャーに来てもらい、誰が何を言ったのか分からない状態で、思いっきり褒めてから、「こうなったらもっと良くなる」という課題をいくつか伝えます。そして、その課題リストの中からマネジャー自身がコミットする課題を選び、改善することを宣言してもらいます。これを何回か繰り返し、人事がしっかりとサポートするそうです。このように、マネジャーの成長意思を部下が応援するといったポジティブな構造での施策実施をおすすめします。

リリー
ちなみに若手に向けても効果的ですか?

松尾
若手に向けても効果的です。先ほどの事例と似ていますが、人事の世界で広まっている「Good Motto(グッド モット)」、あるいは「Good More(グッド モア)」というフィードバック手法があります。相手のよいところをGoodポイント、もっとのばすとなる良くなるところをMotto(More)ポイントとして、相手にフィードバックをする方法です。このようにポジティブな姿勢でフィードバックすることで、社内での定着が進みやすくなります。

リリー
ポジティブな雰囲気での実施と人事の方のケアが大切なのですね。アンラーニングを実践するうえで、上司や人事担当者は具体的にどのように働きかければよいのでしょうか?

松尾
「成長支援のためである」という目的を表明することが重要です。心理的に安心できる中でアンラーニングにチャレンジできる風土が大切になります。反対に、「変わってもらわないと、降格になる」といったような恐怖心を煽るようなネガティブなやり方は、継続性や効果の点で問題があるでしょう。
また、少しチャレンジすればできそうなことから始めることも一つの手です。小さくてもいいので、アンラーニングを積み重ねて、ご自身で手ごたえを感じてもらうことが、何よりも動機づけにつながるはずです。


リリー
最後に、「アンラーニング」を導入していこうという人事担当者に向けて、何かアドバイスはありますか?

松尾
仕事の進め方、会社の仕組みなど、誰しも「変えた方が良い」と薄々気づいていても、なかなかやめられない慣習は必ずあるものです。取り組みにくく感じ、身構えてしまう人もいると思います。さきほどチワワもアンラーンすると言いましたが、たいていの人はアンラーニング経験を持っていると思います。まずは、各自が自分のアンラーニング経験を思い出し、共有することをお勧めします。「そうか、あれがアンラーニングか」と腹落ちした後で、「これから何をアンラーンしますか?」ということを考えてもらうワークショップを開いたらどうでしょうか。
部門レベルのアンラーニングについては、止めても害のない「謎習慣」から止めるといいでしょう。また、別の会社から転職してきた人や、別の部門から異動してきた人、外国人社員に、「うちの部門に来て、違和感のある仕組みはないですか?」と聞くのが効果的です。外部から来たばかりの人や異文化から来た人は、社内の「当たり前」の中にある違和感に気づきやすいからです。

リリー
確かに、留学のように外の文化を知っていた人から見ると、内部の人が気づかないような違和感に気づくことができそうですね。

松尾
しかし、そういった「外からの目」を持つ人も、嫌われてしまうことを恐れ、なかなかその違和感を声に出すのは難しいことだと思います。お勧めしたいのは、中途採用者、外国社員、他部門の人が部門に異動して来たタイミングで「違和感を聞く会」を開いて、アンラーニングすべき習慣を検討することです。
ある大企業は、まだ中堅会社だった頃、中途入社の社員に「違和感があれば遠慮なく言ってほしい」と伝えて、それをどんどん変えることで組織を成長させたそうです。外部から来た人の意見が必ずしも正しいとは限りませんが、アンラーニングのきっかけとして、職場のあるべき姿を皆で議論することが大切だと思います。

リリー
前向きに取り組んでいただけるような仕組みを設計すること、小さな違和感を拾い上げることが非常に大切なのですね!今回も貴重なお話ありがとうございました!
「経験学習」と「アンラーニング」という2テーマにわたるインタビュー企画にご協力いただいた松尾睦先生、心より感謝申し上げます!



株式会社ダイヤモンド社 HRソリューション事業室 西村衣織 (リリー)
2001年3月生まれ、愛知県出身。立教大学 経営学部 国際経営学科を卒業後、2024年に新卒入社。大学時代は、人材・組織開発について学び、「人や組織の成長に貢献するコンテンツ作りに挑戦したい」という思いから入社。趣味は、旅行とグルメ。
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