JA愛知厚生連 江南厚生病院

看護職員の心のケアを目的に、「ストレス耐性テスト DIST」を導入してから10年|新人育成と離職防止に与えた「効果」とは?

  • ストレス耐性テスト DIST

ストレス耐性テスト DIST(以下、DIST)」を新人のケアに役立てている職場がある。愛知県江南市にあるJA愛知厚生連 江南厚生病院だ。同院は尾張北部地域で最大規模の総合病院。救命救急センターを有するほか、がん診療拠点病院にも指定され、地域内外から数多くの患者を受け入れる。そんな同院の看護部は、毎年60名前後の新人看護職員を採用。入職後の新人には一人ひとりに指導者が付き、OJT形式で手厚くサポートする体制だが、そのサポートの一助としてDISTが導入されている。今回は、実際に新人教育に携わってきた看護部のみなさまに、DISTを取り入れた理由や、実際に活用したうえでの感想を伺った。(株式会社ダイヤモンド社 人材開発編集部)

課題

離職の引き金となるリアリティショックから新人看護職員を守りたい

最初に、江南厚生病院の看護部における新人の教育体制についてお伺いできますでしょうか。

江南厚生病院 今枝さん

江南厚生病院 今枝さん

 2010年までは新人に特化したサポート体制というのがありませんでしたが、2010年4月から「看護師等の人材確保の促進に関する法律」が施行され、新人看護職員研修が努力義務化されたことをきっかけとして、現任と新人を分けて考え、新人看護師教育体制を導入しました。

 基本的に、新人は週1回研修を受け、残りはOJT形式で実地指導を受けるプログラムになっています。

国が新人看護職員研修を努力義務化した背景には、看護の質の向上や新人の離職を防ぐという狙いがありますが、やはり新人看護職員の離職は、江南厚生病院においても課題となっていたのでしょうか?

 当院の場合、以前から新人の離職率はそれほど高くありませんでしたが、新人の多くが直面するリアリティショックへの問題意識は持っていました。その壁を乗り越えられずに早いタイミングで離職してしまうと、現場で必要とされる知識や技術がほとんど身に付いていない状態で次の職場を探すことになります。

 看護師は資格があるからどこでも働けるし、すぐに仕事を見つけられると思われがちですが、社会に出て1年足らずで離職している場合、次の職場で即戦力にはなれないので、職探しが難航するかもしれません。看護師として1人前になるまでには3年くらいかかります。私たちとしては新人のみなさんに最低3年は同じ職場で頑張ってもらって、必要な知識と技術を身に着けてほしいと考えています。

 コロナ禍の一時期だけは、例外的に新人の離職が相次いで問題になりました。入職後1年経たずに辞めた人の割合は、2021年度が約3割、2022年度が約2割で、例年と比べるとびっくりするほど高かったんです。コロナ禍では実習がほとんどできず、上司や同僚、先輩、それに患者さんたちとのコミュニケーションを図る機会もあまりなかったので、普段よりも新人をフォローしづらかったことなどが要因と認識しています。

ダイヤモンド社 DIST導入(江南厚生病院での離職推移)

看護師のみなさんは日々の業務に細心の注意を払う必要がありますし、患者やその家族に対しても細やかな気遣いが求められ、ストレスが多い仕事というイメージがあります。特に、社会に出たばかりの新人には負担が大きそうですね。

 たしかに、看護職は覚えなければならない技術や業務が多く、コミュニケーション能力も必要とされます。最近の若手は大部分が核家族で育ち、物心ついたときからスマホでコミュニケーションをとっている世代で、そのバックボーンのせいだけではないかもしれませんが、幅広い年齢層を相手どったコミュニケーションが不得手という人が多い印象です。

 私たちとしても、すぐに一人前の即戦力になれるとは考えていないので、そこは時間をかけて慣れてもらいたいところです。そのためには、どうしてもストレスのケアが求められてくるので、前々から20項目ほどの質問に答える形式のストレスチェックは行っていました。

 ストレスチェックは入職直後の4月と5月は週1回ずつ、6月以降も定期的に行い、誰がどの程度のストレスを感じているのか気を配るようにしていました。たとえば、「夜よく眠れない」という項目にチェックが入っていた子のことは、特に気にかけるようにするとか、そんな程度ですが。

DIST導入の決め手

ストレス耐性の種類や対処資質が細かくわかり、新人の指導に活かせる

従来からストレスチェックを行っていたということですが、そこからDISTを導入していただいた経緯をお聞かせください。

ダイヤモンド社 DIST導入(江南厚生病院 祖父江さん)

江南厚生病院 祖父江さん

 もともとダイヤモンド社の「OJT診断システム DLL」を使っていて、代理店の方に「こんなのもありますよ」と「DIST」を紹介していただいたのがきっかけです。そこからもう10年くらい活用させてもらっています。

 最初にDISTを教えてもらったとき、4つの原因別ストレス耐性と対処資質が示されて、「この人は対人ストレスには強いけど、対課題・対役割ストレスに弱い」というような、人それぞれの特性が明確に見えてくるところがいいな、と思いました。実際、私自身も診断を受けてみたのですが、結果を見て「ああ、納得できるな」という実感があって面白かったですね。

DIST(ストレス耐性テスト)とは?

以前使われていたストレスチェックとDISTでは、どのような点に違いがあると思われますか?

 以前のストレスチェックは、インターネット上で簡単に引っ張ってこられる簡易的なものでした。ストレスの有無はある程度わかるものの、サポートする側がそこにどう対処するのが適切なのかはよくわからなくて、有効な対策はほとんど打てていなかったように思います。

 DISTを導入してからは、たとえば対人ストレスに弱い人にはどう対応すればいいか、など具体的な手立てを考えられるようになりました。

 以前のストレスチェックでは「夜眠れていますか?」みたいな直接的な質問が中心でしたが、DISTでは一見関係なさそうな質問がたくさん並んでいてユニークだと思いました。「この子はこんなふうに答えそう」という事前の印象と、実際に提出された回答がまったく違っていて、相手のまだ表に現れていない部分を浮き彫りにする効果もあると感じました。

従来使われていたストレスチェックにくわえて、DISTを導入した効果はありましたか?

これまでのストレスチェックとDISTはまったくの別物と捉えています。DISTを使うと相手の特性が見えるので、たとえば色々と課題を抱えた子であれば、その特性を踏まえたうえで、今後はこんなふうにやっていこうかとアドバイスをすることができます。

DISTを受けた本人も診断結果を確認して「自分はこういう面で弱いところがあるから注意しよう」というような気づきを得られるところが、これまでのストレスチェックにはない付加価値です。

DISTの活用シーン

指導者側の指導のあり方、かかわり方を考えていく参考資料として活用

実際に、DISTをどのように活用されているのか教えてください。

ダイヤモンド社 DIST導入(江南厚生病院 伊藤さん)

江南厚生病院 伊藤さん

導入してしばらくの間、毎年6月に行う新人交流会の場でDISTを実施していましたが、2024年度からは4月の入職後すぐのタイミングで実施するようになりました。これは、より早いタイミングで行ったほうが、結果を踏まえて新人のサポートをしやすいと考えたからです。

 DISTの結果は、本人に開示して自身のストレス耐性・ストレス耐性資質を理解してもらうほか、OJTで新人と組む指導者や、各部署の新人教育の管理者ともシェアします。

 管理者と新人は面談も行うのですが、そのときにDISTの結果を見ながら話をして、必要に応じたアドバイスをするなど、対話のツールとして機能させています。

指導者や管理者の方は、DISTの結果を実際の指導にどう活かされているのでしょうか?

新人への指導のあり方やかかわり方を考えるうえで参考にしています。看護職は命を預かる責任があり、現場の指導者は多忙な中で新人のフォローをしているので、どうしても新人のできないところに目が行きやすくなります。基本、できて当たり前というアタマがあるので、「何でできないの!」みたいなきつい言い方になることも、時としてあります。

 とりわけ対人ストレスの耐性が低いという結果が出ている子に、指導者がいつもストレートな物言いで指示を出していると、相手を追い詰めてしまうかもしれません。熱意ある指導者の中には、相手がどんなタイプであろうとお構いなくどんどん宿題を出したり、手厳しい指摘をしたりしがちな人もいます。

 対人ストレスに強いタイプなら、それでグングン成長できるかもしれませんが、そうでない場合は潰してしまう恐れがあります。そのため、指導者にはDISTの結果を踏まえて、かかわり方をよく考えるようにしてもらっています。

 DISTで見られる新人のストレス耐性の傾向は、例年よく似ています。大部分の人に共通しているのは「自己効力」や「タフマインド」が低く、「思考のコントロール」や「感情のコントロール」が高いという対処資質を持っている点です。つまり、自分の力を信じて失敗を恐れずに前に進む力は弱い一方、ものの見方や気持ちを切り替えることにより、ストレスを乗り越える力はあるということですね。

 指導者は、こうした特性を踏まえ、新人を応援する姿勢が求められます。ミスはダメなことなんですけど、人は皆失敗をしながら学んでいくもの。患者さんに被害が及ばないミスであれば、あまり目くじらを立てすぎず、一緒に頑張ろう、という感じでかかわるのがベストです。指導者向けにも研修を行うので、DISTの結果を資料として使い、適切な指導のあり方を確認する時間を設けています。

 ただ、相手に気を遣いすぎて、負荷をかけなければいいというものでもありません。新人の場合、日々ちょっとずつ背伸びをして頑張ることが成長につながります。

 多くの新人には、自分にとってハードルが高いと感じることにあまりチャレンジしない傾向が見られますが、その一歩を恐れずに踏み出すことで、グンと伸びる子は伸びます。そこを踏み出せる人――リスクテイク度の高い人になってもらうため、指導者は適度に負荷をかける必要もあります。その匙加減を考えるうえでもDISTは役立っています。

DIST導入の成果

結果の分析により成長に活かす特性が見え、指導者側が新人と接しやすくなった

実際、DISTを受けた新入のみなさんの反応はどうでしたか?

ダイヤモンド社 DIST導入事例(江南厚生病院 桜井さん)

江南厚生病院 桜井さん

 「自分では気づいていなかったですけど、私って実はこんなタイプなんですね」というような反応がよく見られます。自分を知り、分析することは非常に重要で、そこから成長は始まりますから、入職の直後にDISTを実施することには意味があると思っています。

現場に立つ指導者のみなさんは、DISTをどのように評価されていますか?

 導入してから新人とかかわりやすくなったという感覚はありますね。DISTの導入前は、指導者それぞれが主観でかかわり方を考えていく感じでしたが、DISTという根拠ができたことで、より適切な声かけができるようになったと思います。DISTをやってみて、先輩の言動を新人が想像以上に気にして、ストレス要因になっていることもわかりましたし。

 コロナで離職率が高かった2021年度と、その直前の2020年度のDIST結果を比較しています。先ほども話に出てきましたが、「自己効力」や「タフマインド」が低く、「思考のコントロール」や「感情のコントロール」が高いというような傾向がある点は、どちらの年も変わりません。

 ただ、2021年のほうがほとんどの数値が低く出ている、つまりストレス耐性が低いことがわかります。また、自己効力やタフマインドから想定されるリスクテイク度も、当然ながら2021年のほうが低いという結果になっています。

DIST(ストレス耐性)診断結果比較のイメージ

 実際に離職した人のDISTの結果を分析してみると、リスクテイク度が低い人は離職につながりやすい。また、リスクテイク度が高くても対人ストレス耐性が低いと離職につながりやすいということが見えてきました。これを受けて、リスクテイク度が低い(自己効力やタフマインドが低い)人や対人ストレス耐性が低い人に対しては、特に指導者側が注意してサポートをしていこうという認識も生まれたことが、一つの成果ではないかと思います。

DIST ストレス耐性テスト(ダイヤモンド社)

提案者の声

永瀬隆之 さん

株式会社フェアアンドイノベーション 代表取締役  

医療機関にとって、新人の成長と人材の定着は医療サービスの質を担保する上で非常に重要です。江南厚生病院様では感染症対策でマスク姿が常態化している職場環境でDISTの活用により、新人のみならず若年層のサポートを見直すなど信頼関係の構築を実現しています。すでに、ダイヤモンド社のDLL(OJTスキル診断)を上手く活用し、先輩職員の指導スキル向上で有用性を確信していたからです。江南厚生病院様だけでなく、他の医療機関でも同様の課題があるので、臨床現場の負担を軽減しながら、質の高いチーム医療を実践するためにこれら診断ツールを広く紹介していきたいと思います。

導入企業

JA愛知厚生連 江南厚生病院

江南厚生病院は2008年に開院し、尾北地域の中核病院として高度な医療を提供している。循環器や血液療法、内視鏡などの専門センターを設置し、愛知県から重要な医療機関として指定されている。医療介護の総合的な提供体制の構築が進む中、急性期医療の充実を図り、患者中心の医療を実践している。また、他医療機関や介護施設と連携し、地域全体で患者を支える体制を築いている。さらに、教育研修病院・臨床研修指定病院として、医療従事者の資質向上に努め、各種学会認定の研修施設としても広く貢献している。医療の質向上を目指し、次世代医療従事者の育成にも力を入れている。

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