ビジネスマナー研修の目的と注意点|新入社員研修を成功に導くポイントを解説

株式会社 ダイヤモンド・ヒューマンリソース HD首都圏営業2部 HD営業課  川村純平

  • ダイヤモンドHRD総研

ビジネスマナー研修は新入社員研修の定番として、多くの企業で実施されているのではないでしょうか。カリキュラムは名刺の渡し方や電話応対、服装など、社会人としての基本動作を学ぶための重要な内容となっています。

 しかし、受け身で受講する新人も多く、なかなか身につかないといった課題を抱えている人事担当者も少なくありません。「最近の若い人たちは」と思いがちですが、原因は指導する側にあるケースがほとんどです。研修の効果を最大限に引き出すためには、目的を明確化し適切な実施方法をおさえなければなりません。

 本記事では、実際に研修事業に携わり、研修を依頼していただいた企業の事例をもとに、ビジネスマナー研修の考え方や必要な理由、実施にあたっての注意点について解説します。新人育成に携わる人事担当者の方は、ぜひ参考にしてみてください。

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ビジネスマナー研修とは

 ビジネスマナー研修とは、社会人としての基本的な振る舞いや、ビジネスの場で必要とされるコミュニケーションスキルを体系的に学ぶ教育プログラムのことです。近年は、オンライン化やグローバル化などにより、ビジネス環境が変化しました。それとともに、ビジネスマナーに対する考え方も世代によって変化しています。

 特にZ世代は「ビジネスマナーは社会人としての常識だ」と教えられても、自分が納得できなければ行動に移さない人も少なくありません。そのため、研修内容がZ世代にとって「腹落ち」するかどうかが非常に重要です。

 従って、これまでの「社会人としての振る舞いはこうである」といった、ビジネスマナーの指導法が通用しなくなってきています。従来の「やらされている感」が強いマナー研修では、新入社員には通用しないことを理解しておく必要があるでしょう。

ビジネスマナー研修が必要な理由

 近年は対面での接客や商談が復活した影響もあり、あらためてビジネスマナーの重要性が見直されてきています。次に、営業を通じて実際にお客様に伺った声をもとに、ビジネスマナーの必要性をお伝えします。

配属後のミスマッチと研修ニーズの高まり

 実際にお客様からの声として多くあるのは、人事による研修を終えて配属されたものの「ビジネスマナーが身についていない」という現場からの指摘です。現場としては、人事の方でしっかりとビジネスマナーを習得させてから配属して欲しいとの思いがあります。

  一方で、指導する側からは「厳しく指導するとすぐに退職してしまう」あるいは「ハラスメントを懸念してうまく指導できない」といったジレンマがあるといった声も聞かれます。

 結果として、信頼関係の構築ができず、新人が適切な指導を受けられないまま成長し、企業イメージの低下に繋がる可能性があるでしょう。こうした事態を防ぐために、ビジネスマナー研修を見直したいという企業は少なくありません。

 だからこそ、社内の人間から指摘しにくい点は専門性の高い、外部講師に依頼して研修を行う企業が増えています。

コロナ禍でのオンライン研修の弊害

 コロナ禍は、研修のほとんどがオンライン化されました。しかし、マナー研修は映像や座学だけではうまく身につきません。例えば、名刺交換の場合は、相手の動きやその場の状況によって動きを変える必要があります。しかし、オンラインではカメラ越しになってしまうため、リアルな研修に比べるとしっかりとしたマナーが身につきにくいのです。講師からは全体が見えないため、所作全体を指摘しづらいと弊害もあります。

 オンライン研修はメリットがある一方で、このような弊害があることも事実です。そのため対面でのビジネスマナー研修が見直されています。

新入社員のビジネスマナー研修の目的

 ビジネスマナー研修を成功させるためには、そもそも「研修は何のためにやるのか」を理解してもらう必要があるでしょう。単に「例年やっているから」といった理由では、受講者も研修の意義を見出せません。事前にしっかりと目的を伝えることが大切です。

自分が恥をかかないため

 学生時代は、自分の好きな人や気の合う仲間としか接しない場面が多いため、曖昧なコミュニケーションでも通じる部分が大きいです。例えば、相手のことをよく知っているので「これは言わなくてもわかるだろう」や「おそらくこう答えるだろう」といった、感覚的なコミュニケーションでも通用します。

 しかし、社会人になるとそうはいきません。様々な人とのコミュニケーションが必要となり、人によって常識の尺度も異なります。従って、自分の振る舞い方によっては恥をかく場合もあるのです。

  そのため、ビジネスマナーを身につける必要があります。少なくとも一般的なビジネスマナーを身につけておけば、仕事において恥をかくことはありません。このような認識を持ってもらうことが大事です。

相手に配慮するため

 ビジネスマナーは「相手との関係を構築するための重要なツール」だという認識を持ってもらいましょう。ビジネスマナーの根底は「敬う」「思いやる」「感謝する」といった姿勢です。この点を理解してもらう必要があります。

 例えば、ルールを守らないと罰則がありますが、マナーに違反しても罰則はありません。ただし「人間関係がうまくいかない」「孤立してしまう」といったマイナス面が生じます。言い換えれば、マナーは相手への配慮であり自己防衛でもあります。マナーを守ることで相手との良好な関係を築き、コミュニケーションも円滑になります。

 そのため、ビジネスマナーというツールを使って、相手を尊重する考え方が重要だという認識を持ってもらうことが重要です。従って、研修においても「ビジネスマナーは、相手に配慮することで自分が損をしないための行動」だと説明すると良いでしょう。

仕事をしやすくするため

 ビジネスマナーには挨拶や言葉遣い、身だしなみといった様々な要素がありますが、一番大事なのは「報・連・相」です。実際に、企業から依頼されて研修を実施する際も「報・連・相」の重要性を伝えるケースが少なくありません。

 学生から社会人になって一番大きく変わるのは、コミュニケーションの取り方です。特に上司への「報・連・相」が疎かだと、うまく伝わらなかったり違う意味になったりします。そこからミスに繋がることもあるでしょう。

 逆に「報・連・相」ができていれば、状況を把握しやすく次の仕事を任せやすくなります。さらに、信頼関係も築けるため、困り事や悩み事の相談がしやすくなり離職防止にも繋がるでしょう。つまり、双方にとってメリットなのです。

 従って「ビジネスマナーは、自分が仕事をしやすくするために身につけるもの」と認識してもらうと良いでしょう。

新入社員のビジネスマナー研修で失敗しないための5つの心構え

新入社員のビジネスマナー研修で失敗しないための5つの心構え

 ビジネスマナー研修は、どうしても指導者目線で考えがちです。しかし、それでは能動的に受講してもらえず、結果的に失敗する可能性が高くなります。失敗しないためには受講者への配慮が必要です。以下に、ビジネスマナー研修で失敗しないための心構えを紹介します。

1.なぜ必要なのかを伝える

 一番多いのが、自分の経験や価値観を一方的に押し付けてしまうパターンです。若い人は「なぜ意味があるのか」を理解できなければ、動いてくれません。そのため、研修の背景や目的を伝える必要があるでしょう。

 例えば「過去にこういう失敗があったから、失敗を防ぐためにやっている」や「OJTの時に困らないために必要」といった動機づけが必要です。単に「必要だから」と伝えても、自分の仕事に直接関係がないと思えば「やらされている」と受け身になってしまうため注意が必要です。

2.講師選びのポイント

 講師を選ぶ際には、多様な視点を尊重し、受講者一人ひとりが安心して学べる環境を提供できるかが非常に重要です。特に、ダイバーシティ(多様性)やアンコンシャスバイアス(無意識の偏見)をきちんと理解し、それを研修内容や進行に反映できる講師が求められます。 

 講師の中には、過去の成功体験や自身の価値観を一方的に押し付ける方も見受けられます。このような姿勢は、新人の成長を妨げる可能性があるため、講師選びの際には注意が必要です。講師にはご自身の経験を基にしつつも、受講者の意見や視点を引き出す柔軟な進行力が求められます。

4.カスタマイズも必要

 ビジネスマナーは部署や仕事内容によって、均一化できないケースもあります。例えば、ピアスやネイル、髪型などは硬い仕事ではNGなものでも、アパレルや美容業界では少しくらいおしゃれな方が評価されるケースもあります。

また、一般企業においても、従来の常識だとNGだったものが近年は変化してきており、以前のように「マナーはこうあるべき」といった概念が均一化できなくなってきています。

  そのため、時代の流れに合わせることも重要です。そうしなければ、新入社員には受け入れてもらえないでしょう。しかし、従来のやり方にこだわって、研修内容を変えられない企業は少なくありません。 

5.その場でトレーニングさせる

 実際に現場に出ると、ビジネスマナーが裏目に出て商談がうまくいかないことや、企業イメージを損ねてしまうことは避けなければなりません。そのためには、研修段階で多くの失敗経験を積ませることが重要です。研修時は失敗して叱られることがあっても、大きなダメージにはなりません。

 むしろ、早い段階でダメージを受けておいて、OJTや現場で恥をかかないようにする方が大事です。新人研修は新人だけが受けられる特権なので、今のうちしか失敗から学べるチャンスはありません。どんどん失敗させましょう。

新入社員のビジネスマナー研修内容

新入社員のビジネスマナー研修内容

 ビジネスマナーは、社内外の円滑なコミュニケーションを促進し、良好な人間関係を構築する上で欠かせません。企業イメージの向上にも繋がるため、新入社員一人ひとりがしっかりと理解し実践できるよう指導することが大切です。

  次に、ビジネスマナー研修で習得するべき基本的な内容を紹介します。これらの項目を身につけておけば、恥をかくことはありません。しっかりと必要性を感じてもらいましょう。

挨拶

 挨拶は社会人としての第一印象を決定づける重要な要素です。研修では、「おはようございます」「失礼します」「よろしくお願いいたします」といった基本的な挨拶に加え、状況に応じた適切な挨拶の仕方を指導します。

 また、従来の対面での挨拶に加え、現代ではオンラインでの挨拶スキルも欠かせません。声の大きさや表情、アイコンタクトは画面越しでも相手に好印象を与えます。特にオンラインミーティングでは、カメラの位置や画角を意識し、目線の合わせ方にも配慮が必要です。さらに、複数人が参加する際の挨拶のタイミングなど、オンラインならではの作法も押さえておきましょう。

言葉遣い

 適切な言葉遣いは、ビジネスシーンにおける信頼関係構築の基礎となります。敬語の使い方や丁寧な表現、相手に失礼のない言葉選びなど、状況に応じた適切な言葉遣いを指導しましょう。具体例を挙げて説明することで、より理解が深まります。例えば「了解しました」は、上司に対しては失礼にあたるため「承知しました」を使うべきといった具体的な指導が効果的です。

 また、近年はオンラインコミュニケーションの増加に伴い、チャットやメールでの言葉遣いも重要視されています。学生にありがちな絵文字やスタンプの多用、略語の使用は避けるべきといった、オンライン特有の言葉遣いについても指導する必要があるでしょう。

身だしなみ

 身だしなみは、相手に与える印象を大きく左右する重要な要素です。服装や髪型、アクセサリー、メイクなどビジネスシーンにふさわしい身だしなみを指導します。また、業界の特性や企業文化に合わせた服装を理解させ、TPOをわきまえられるようにする必要があるでしょう。

 さらに、オンラインミーティングでの見え方にも配慮が欠かせません。照明の当て方やカメラアングル、背景など、オンライン上でも好印象を与えられるポイントを指導することが重要です。

時間厳守                                            

 時間厳守は、社会人としての信頼に関わる基本的な項目です。約束の時間を守ることの重要性や5分前行動の意義などを説明し、時間管理能力の向上を目指します。万が一遅刻した場合の適切な謝罪方法や連絡方法についての指導も欠かせません。また、効率的な時間管理のためのツールの活用方法や、優先順位の付け方なども重要な指導項目となります。

 さらに、オンライン会議では、接続トラブルや通信環境の不備による遅刻も起こりえます。事前に接続テストを行う、代替の通信手段を準備するなど、オンライン特有の時間管理についても指導する必要があるでしょう。

電話対応

 電話対応は、企業のイメージを左右する重要な要素です。研修では電話のかけ方や受け方、取次ぎ方、メッセージの伝達方法など、一連の流れを指導します。明るい声と丁寧な言葉遣いを心がけ、失礼のない対応を習得させましょう。また、電話対応時のメモの取り方や、要件を正確に聞き取るためのスキルも重要です。

 さらに、近年はオンラインツールを使用した対応を行う場面も多いため、画面共有やチャット機能の活用方法についても指導が必要でしょう。

名刺交換

 名刺交換は、ビジネスにおいて必須のマナーです。名刺の受け渡し方やもらい方、自己紹介の方法、名刺の管理方法などを指導し、相手に敬意を表し好印象を与えられるようにします。また、名刺交換後のフォローや活用法、良好なビジネス関係の構築に繋げるための行動などの指導も不可欠です。

 また、近年はオンライン名刺交換も普及しつつあります。QRコードを利用した名刺交換や、名刺管理アプリの活用方法など、デジタルツールを活用した名刺交換についても指導する必要があるでしょう。このような社会的な動向も踏まえ、名刺交換のあり方について考える機会を設けることも重要です。

報告・連絡・相談

 報告・連絡・相談(報連相)は、スムーズな業務遂行に不可欠な要素です。報連相の目的や重要性、適切なタイミング、報告の仕方、連絡事項や相談内容の伝え方などを指導します。相手に合わせて分かりやすく簡潔に伝える方法を習得させることが重要です。

 また、リモートワーク環境下での報連相の方法、社内ツールやメールなどを活用したコミュニケーション方法、緊急時の連絡方法なども指導が必要でしょう。

 特に近年は在宅勤務も増えているため、報連相で状況を共有し、共通認識を持つことが重要視されています。チーム内でのルールや、報連相に関するガイドラインなどを研修に取り入れることも必要です。

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“配属後すぐに役立つ”社会人としてのマインドとマナーを身につけることができます。ロールプレイなど多様なアウトプットを行うと同時に、報連相、タイムマネジメントといった自律的行動を徹底させます。

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新入社員のビジネスマナー研修の注意点

 ビジネスマナー研修を実施するにあたって「どうすれば成功するのか」は、多くの企業の悩みです。実際にヒアリングした事例をもとに、研修を実施する際に注意すべき点を紹介します。以下の点に着目してみてください。

上司からの発信も大事

  ビジネスマナー研修を実施したものの、現場に戻ると実践できないケースは少なくありません。そうならないためには、研修に送り出す側の上司の働きかけも重要です。よくあるパターンは、人事に全てお任せで「現場の上司は一切関与しない」というケースです。

 研修は、人事だけが一生懸命になっても成功しません。現場の上司が研修の重要性を周知徹底し、事前に受講者の意識を高めることで、研修の効果を最大化できるのです。現場と人事が同じ方向を向き、しっかり学んでもらいたいという思いが受講生に伝わらなければ「やらされ感」の研修になってしまいます。

オフラインで行う

 近年はオンライン研修が主流ですが、ビジネスマナー研修においてオンラインはおすすめできません。オンラインでは細かなニュアンスが伝わらないうえ、新人同士のコミュニケーションも活性化しないためです。チームビルディングの観点からも、受講者同士の横の繋がりを持っておく必要があります。

 しかし、オフラインでは画面越しになるため、人によっては一方通行の研修になってしまうでしょう。対面研修の方が、講師や他の受講者との直接的なコミュニケーションを通して、より深い学びを得られます。

実際に関連する事例を例に出す

 ビジネスマナーの必要性を落とし込む際に、事例を出して必要性を伝える必要があります。しかし、実際の業務に即した事例にしなければ、受講生は実感が湧きません。例えば、営業職ではない人に対して営業の場面での事例などは避けるべきです。

 内容が自分には関係ないと感じれば、受け身の受講になってしまいます。それよりも、実際に現場であった失敗のエピソードなどを交えて必要性を伝えましょう。中には研修が終わった後に配属が決まるケースもあるため、特定部署の話よりも体験談などの方が、自分事に置き換えやすくなります。

今後のビジネスマナー研修のあり方

 変化するビジネス環境に合わせて、ビジネスマナー研修に対する考え方も変える必要があります。従来のように「入社したらマナー研修は常識だから受講させる」といった、常識が変わりつつあるのです。特にZ世代に対しては「常識だから」ではなく「必要だから」と感じてもらうべく、丁寧な説明が欠かせません。

ビジネスマナーを身につけることが「自分の得になる」と言うことを腹落ちさせることが重要です。自分が必要だと思わなければ「やらされ研修」になってしまいます。また、企業の状況に合わせた研修内容のカスタマイズも欠かせません。ビジネスマナーを身につけておくことが信頼関係に繋がり、いかに「自分のためになると理解してもらえるか」が研修成功の鍵を握っています。

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株式会社 ダイヤモンド・ヒューマンリソース HD首都圏営業2部 HD営業課  川村純平

青森県出身、2022年に株式会社ダイヤモンド・ヒューマンリソースへ新卒入社。首都圏を中心としたメーカー、専門商社を担当。新卒採用支援や人材開発支援を担当。メーカー企業を中心に若手から管理職まで幅広く研修を企画し、実施いただく。趣味は海外サッカー観戦。

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