「経験学習」研究の第一人者の松尾睦先生と振り返る、ダイヤモンド社との出会いから『職場が生きる 人が育つ 「経験学習」入門』誕生への道のり

青山学院大学 経済学部 経営学科 松尾睦 教授

  • ダイヤモンドHRD総研

ダイヤモンド社のHRソリューション事業室が手掛けるプロダクトの特徴は、アカデミックな知見をベースにしている点にある。それを可能にしたのは、HRソリューション事業室が持つ、大学教授などの専門家との多彩なネットワークだ。今回は、ダイヤモンド社との関わりが深い専門家の一人で、「経験学習」研究の第一人者である松尾睦先生に、ダイヤモンド社との出会いから、現在に至るまでの道のりを振り返ってもらった。(聞き手/ダイヤモンド社 HRソリューション事業室・蓬田尚志)

『「現場の学び」診断WPL』『OJT診断DLL』の開発に携わる  

見やすく、わかりやすい、ラーニングリーダー診断システム『OJT診断DLL』の診断結果

ラーニングリーダー診断システムの『OJT診断DLL』の診断結果

――松尾先生とダイヤモンド社のお付き合いも、もうずいぶん長くなりました。最初の出会いは覚えていらっしゃいますか?

 松尾 中原淳先生(立教大学 経営学部教授)のイベントにゲストで呼んでいただいて、僕の専門領域である「経験学習」の話をしたんですが、そのときに石田さん(現ダイヤモンド社社長)たちとお会いしたのが最初です。2006年くらいだったでしょうか。

  それ以前から、ダイヤモンド社の出版物を手に取る機会は多かったので、社名はもちろん知っていました。当時は、まだ出版社とのつながりもあまりなかったので、漠然と「僕なんか相手にしてもらえないだろう。ちょっと怖いな……」なんて思ったことを覚えています(笑)。ですが、実際にやりとりするようになってからは、熱い人が多いし、面倒見もよくて“人情味あふれる会社”という印象に変わりました。

 ――そこでご挨拶をさせていただいた後、弊社の商品開発へのご協力をお願いしたんですよね。

 松尾 最初期に関わらせてもらったのは、組織診断ツールの『「現場の学び」診断WPL』と、ラーニングリーダー診断システムの『OJT診断DLL』でした。WPLのほうは、中原先生と僕の2人監修。DLLについては、ダイヤモンド社さんから当初お声がけいただいたとき、僕がその頃“職場における育成”の分野に明るくなかったことを理由に、一度はお断りしたんですよ。

 ただ、「結果を出せるかどうかはわからないけど、開発に向けて調査はしてみましょう」ということになり、手探り状態のなか、話が進んでいったんですよね。それで、ダイヤモンド社さんと一緒にあれこれ調査をしていくうちに、OJTと経験学習の関りの深さを改めて実感させられて。そこから、開発に本腰を入れる流れになったと記憶しています。

「経験学習」をテーマとした書籍を3冊刊行へ

企業人事だけでなく、医療や教育現場など幅広く読まれている「経験学習」シリーズ書籍

企業人事だけでなく、医療や教育現場など幅広く読まれている「経験学習」シリーズ書籍

――ダイヤモンド社から出版させていただいた先生の最初の書籍は、2011年11月刊行の『職場が生きる 人が育つ 「経験学習」入門』でした。

松尾 経験から学ぶ力“経験学習力”についてまとめた本を作りたい、ということでスタートした本です。構成を考える段階では色々と悩んだのですが、編集を担当してくださった石田さんに「“松尾理論”を打ち立てて、経験学習のモデルを確立したらいいじゃないですか」と激励されて、迷いを晴らすことができました。

  とはいえ、原稿を見せるたびに石田さんには絞られて(笑)。「読者の目線に“降りて”書いてください」とか、もっと率直に「わかりにくいです」だとか。タイトルについても、ダイヤモンド社さん側から「『入門』という言葉を入れましょう」と言われて、僕は最初「それだと研究書じゃなくなっちゃうから、イヤだな」と思ったんです。でも、結果的には「入門」と謳ったからこそ幅広い人に読まれて、内容もわかりやすいと言ってもらえました。的確なアドバイスをいただいてよかったな、と思っています。

 ――その後、2015年にも弊社から『「経験学習」ケーススタディ』を出版させていただきましたが、こちらはタイトルにあるとおり、さまざまな企業のケーススタディが紹介されています。もともとは、先生が携わられていた「経験学習実践塾」の内容がベースになっているんですよね。

 松尾 経験学習実践塾には「経験学習をベースに人材育成のシステムを作りたい」という志を持った企業が集まっていました。前著の『職場が生きる 人が育つ 「経験学習」入門』を基に育成を行っている企業も多く、お互いにどんなことを実践しているか紹介しあって、より良い人材育成のあり方を議論する場になっていたんです。人材育成のリーディングカンパニーが顔を揃えていて、毎回、非常に有意義な議論ができていたので、せっかくだから、その内容を本にしようということになりました。

 ――松尾先生は『職場が生きる 人が育つ 「経験学習」入門』を準備されていた頃から、現場へのヒアリングやインタビューを長期的に続けられていたと伺っています。それを結実させたのが、2019年刊行の『部下の強みを引き出す経験学習リーダーシップ』という位置づけになるでしょうか。ダイヤモンド社では、こちらを基にした研修も作らせていただきました。

 松尾 ずっと続けてきた調査を本としてまとめていただけたのは、本当にありがたかったですね。『「経験学習」ケーススタディ』は実例紹介に特化していますが、『職場が生きる 人が育つ 「経験学習」入門』と『部下の強みを引き出す 経験学習リーダーシップ』には、僕の研究の原点というか、コアになる内容を詰め込んであります。

  ありがたいことに『部下の強みを引き出す 経験学習リーダーシップ』のほうも、やはり多くの方に読んでいただけています。読者は、企業の人事のみなさんのほか、医療や教育現場の方なども多く、さまざまな現場で実際に役立てていただいている、という声も届いています。自分の研究成果を、こうして少しでも社会貢献につなげることができているのは、ダイヤモンド社さんに導いていただいたおかげです。

今後も、新しいプロダクトの開発に挑戦していきたい

いま特に力を入れていらっしゃる研究領域を語る松尾教授


――先生が今、特に力を入れていらっしゃる研究領域をお伺いできますか?

 松尾 最近は「アンラーニング」の研究を試行錯誤しながらやっていますね。アンラーニングは経験学習と密接に結びついていて、成長するうえでは欠かせないプロセスです。経験学習サイクルを回していても、旧来の型にはまって内向的なサイクルになっていると、一定のところから成長しなくなってしまいます。

 そこで重要なのは、慣れ親しんできたスタイルやルーティンの使用をいったん停止し、新しいスタイルやルーティンにアップデートする――つまり、アンラーニングすることです。これまでにも、個人レベルのアンラーニングについては研究してきましたが、今、新たに着手しているのは、一つの部門やチームを引っ張るミドルマネージャー、課長クラスの人に向けたアンラーニングです。

――ひと口にアンラーニングと言っても、個人レベル、部門・チームレベル、組織全体レベルと、さまざまなレイヤーがあるんですね。

松尾 組織全体レベルのアンラーニングに関しては、よく知られている事例がたくさんありますよね。たとえば、写真フィルムの製造で創業した富士フイルムは、途中で大きく方針を転換し、化粧品や医薬品事業に注力して成功を収めました。時代の流れに合わせてアンラーニングを行い、流動的に戦略も変えていくことが奏功した好例と言えます。

 組織全体よりは小規模な、部門・チームレベルでのアンラーニングにおいては、そのリーダーにあたるミドルマネージャーがカギを握ります。ミドルマネージャーが主導して部門・チームの仕組みをより良いものに変え、成長を促すためには、いかにしてアンラーンすればいいのか。ミドルマネージャーは、場合によっては自分のマネージメントスタイルや仕事の進め方からアンラーンしなければならないし、それは簡単なことではありません。実際、今も現場のインタビューやデータ分析を行っていますが、なかなか難しいテーマだと感じています。

 ――たしかに、前例を踏襲しているだけなら楽なので、そちらに流れてしまいそうです。

松尾 厄介なのは、成功しているときほど、もっとうまくいくやり方を考えて、機能していない部分をアンラーンする必要があるということ。でも、成功しているときにその必要性に気づくのは難しいんです。そうすると、凝り固まって成長できない状況に陥ってしまう。だからこそ、成功していようと失敗していようと、経験学習サイクルを回しつつ、状況に応じてアンラーニングをしていかなければなりません。

 難しいですが、アンラーニングは非常に興味深いテーマです。仕事面にとどまらず、我々の人生においても、たとえば仕事を引退して肩書がなくなったとき、世界はガラリと変わります。職場がない、同僚や部下がいない、という状況下で、不要な要素はアンラーンしていかないと、新たな世界で生きていくことが難しくなると思うわけです。そういう意味で、アンラーニングの概念は誰にとっても必要なものと言えそうですね。

――アンラーニングは人材開発・育成の分野でもホットなワードです。それも含めて、先生には今後とも、さまざまな分野でご協力いただければ幸いです。

 松尾 僕自身、ダイヤモンド社さんとのプロダクトを通じて、さまざまな人と出会う機会を得られて、それが研究に良い影響を与えている部分も大いにあると思っています。今後とも、さまざまな新しいことに、一緒に挑戦させてもらえればありがたいですね。

新たなる挑戦への意気込みを語る松尾教授

青山学院大学 経済学部 経営学科 松尾睦 教授

1988年小樽商科大学 商学部卒業。92年北海道大学大学院 文学研究科(行動科学専攻)修士課程修了。99年東京工業大学大学院 社会理工学研究科(人間行動システム専攻)博士課程修了。博士(学術)。2004年英国ランカスター大学にてPh.D. (Management Learning)取得。神戸大学大学院 経営学研究科教授、北海学大学院 経済研究院教授などを経て現職。『部下の強みを引き出す 経験学習リーダーシップ』(ダイヤモンド社)など、著書多数。

 

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